工藤探偵事務所老巧化 優作さん「聖地」取り壊し/1998年3月29日付
故松田優作さんのブームが再燃する一方で、あの「工藤探偵事務所」が取り壊されることになった。テレビドラマ「探偵物語」(1979年)で優作さんふんする私立探偵“工藤ちゃん”の事務所シーンが撮影されていた都内の病院が、老朽化のため9月末に移転。現在の場所は姿を消すことになった。優作ファンには「聖地」ともいえる場所で、現地には最後に一目見たいという人が次々と訪れている。
取り壊されるのは、東京・千代田区にある(財)同和病院。「探偵物語」の拠点だった工藤探偵事務所は、4階建ての同院の屋上にあるレンガ造りの建物で撮影されていた。19年前の放送当時にはオシャレに見えた外観も、今はさびれて物悲しい雰囲気。最近、探偵物語のパロディーの撮影で同所を訪れたキムタクこと木村拓哉(25)も「ずいぶん古い」と驚いたという。
同院は1929年(昭4)に「東京都医師建築信用組合」として設立された。レンガの外壁とステンドグラスの内装という美しさで親しまれたが、築69年とあって老朽化は深刻。事務局次長の田島良一さんは「雨漏りがひどく、水のタンクもやられている。漏電の心配もあり、もうボロボロ」とニガ笑い。建設中の新病院に9月30日に移転予定で、現在の場所は10月以降取り壊しになる。
同院には、優作ファンの問い合わせが相次いでいる。田島さんは「週に何本も電話がきます。周辺にも見物の人がよく来ていて、名物の階段で記念写真を撮っていく人も多いですね。勝手に入って屋上まで行こうとするマナー違反もいます」。取り壊しについては、老朽化の実態を説明して納得してもらっているという。「私も優作さんの映画を見ていますから、取り壊しは残念。でも、人命を預かる病院ですからやむを得ないんですよ」と話す。
インターネットで優作さん関連のホームページを開設している川瀬丈太さん(30=会社員)は「取り壊しは昨年末くらいからインターネット上で話題になっていた。あの場所は僕ら優作さんのファンにとっては聖地。何とか保存できないものでしょうか」。
同氏のページには100人を超えるファンから声が寄せられ、中には「重要文化財に値する」と惜しむものまである。最近は、ドラマのエンディングで使われた渋谷・公園通りの壁画も姿を消したばかり。同氏は「病院だから、老朽化すれば取り壊すのは仕方ありません。せめて入り口の階段や扉だけでも移築できれば。ドラマを製作した日本テレビや東映が買い取って、記念館を造るべき」と話している。
[1998年3月29日付]