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松田優作という男/1989年11月7日付

 松田優作さんは日本テレビ「太陽にほえろ!」で世に出たころは、血の気が多く酒席で人を殴るなどの武勇伝がしばしば聞こえてきた。だが映画制作への情熱は並々ならぬものがあった。アクション俳優から、演技派への分岐点となった6年前の映画「家族ゲーム」でメガホンをとった森田芳光監督に対しては、自分より2歳年下にもかかわらず、まるで人生の師のように接した。最初で最後の映画監督として取り組んだ「ア・ホーマンス」の公開直前にインタビューしたときには、日ごろの個性派俳優としての自信はどこへやら。”新人監督”としての頭の低さ、ひたむきさばかりが印象に残った。監督を至上のものとする、現役俳優としては珍しいカツドウ屋としての彼の意識が垣間見えた。

 一昨年のカンヌ映画祭出展作となった「嵐が丘」で吉田喜重監督と渡仏した際には、この作品を酷評した日本人記者に食ってかかり「監督だって日本人として頑張っているんだ。同じ日本人なら悪く書くな」と妙に一本気なところを見せたこともあった。

 独特の思い込みや、極端に個性的な役作りが俳優・松田優作の魅力だが、映画に対する愛情だけは、常に言葉の端々に感じられた。

[1989年11月7日付]



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