食後すぐの歯磨きは、意外にも、歯に深刻なダメージを与えることが最新の研究で判明しています。これは、米国の総合歯科学会(AGD)の実験によるもの。歯の外側にはエナメル質、内側にはエナメル質よりやわらかく虫歯が進行しやすい象牙質(デンティン)という層があります。AGDの実験では、象牙質のサンプルを被験者たちの口内に装着し、それぞれ異なったタイミングで歯磨きを行い、腐食度合いを観察しました。

その結果、食後30分以内に歯を磨いた被験者の口内で、象牙質の腐食が確認されたのです。20分以内に磨いた被験者でも、腐食具合は著しく増していました。しかし、食後30分~1時間たってから磨いた人たちには、ほとんど腐食が見られなかったのです。

AGDの学長、ハワード・ギャンブル医師によると、「食後すぐに歯を磨くと、食べ物に含まれていた酸を歯のより深い部分へ、より早く浸透させることになる」とのことで、今回の実験により、歯磨きによって歯の腐食が促進されてしまうのが、「食後30分以内」だったと言います。食後30分たてば、唾液によって、口の中は酸性から中性に傾き、これによって歯の表面に再石灰化が生じて固くなるので、歯磨きをしても歯に細かい傷がつきにくいということなんです。どうしても多忙で30分待てないという人は、食後に、口を水で十分にゆすいで出来るだけ酸性を中性にしてから磨くのをお勧めします。

歯磨き後の口の「すすぎ」でも、注意が必要です。歯磨き後、たいていの人は何回も口をすすぐでしょう。しかし歯磨き後の口の「すすぎ」は、1回でいいのです。その理由は「フッ素」にあります。フッ素は、ほとんどの歯磨き粉に含まれている、虫歯予防や歯を丈夫にする働きがある成分です。フッ素入り歯磨き粉を使うと、歯はフッ素のコーティングに包まれます。

しかし、このフッ素コーティング、短時間では歯に沈着しないため、長時間保持する必要があります。ですから、フッ素が沈着する前に何度も口をすすぐとフッ素のコーティングがはがれてしまうのです。だから口をすすぐのは1回(含む水は10ミリリットル程度)がいいというわけです。

愛知県がんセンターの報告で「歯磨きをしないと食道がんになりやすい」というものがあります。1日に1度しか歯を磨かない人は2回以上磨く人より、食道のがんになる危険性が29%も増加するそうです。口やのどには、発がん性物質のアセトアルデヒドを作る細菌がいるので、歯を磨かないと細菌が増殖し、がんになる危険が増すというわけです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。