歯周病は以前から、糖尿病の合併症の1つといわれてきました。実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯肉炎や歯周炎にかかっている人が多いという疫学調査が複数報告されています。さらに、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました。つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられています。

歯周病菌は、腫れた歯肉から容易に血管内に侵入し全身に回ります。血管に入った細菌は体の力で死滅しますが、歯周病菌の死骸の持つ「内毒素」(細菌の細胞壁に含まれる毒物。エンドトキシンともいう)は残り、血糖値に悪影響を及ぼします。血液中の内毒素は、脂肪組織や肝臓からのTNF-α(腫瘍に対して出血性壊死=えし=を誘発させる因子)の産生を強力に推し進めます。この因子は、血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを邪魔してしまうのです。

歯周病を合併した糖尿病の患者に、抗菌薬を用いた歯周病治療を行ったところ、血液中のTNF-α濃度が低下するだけではなく、血糖値のコントロール状態も改善するという結果が得られています。

歯肉の炎症が全身に多くの影響を与えることは昨今の研究で明らかになっています。歯周病も糖尿病も生活習慣病ですから互いに深い関係があって不思議ではありません。

また、妊娠している女性が歯周病に罹患(りかん)している場合、低体重児や早産の危険度が高くなっていることが指摘されています。一般に、妊娠すると歯肉炎にかかりやすくなるといわれています。これは、エストロゲンという女性ホルモンがある特定の歯周病原細菌の増殖を促すこと、また、歯肉を形作る細胞がエストロゲンの標的になることが知られています。

口の中の歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかと、いわれています。その危険度は何と、7倍にものぼるといわれ、たばこやアルコール、高齢出産などよりはるかに高い数字なのです。歯周病は治療可能なだけではなく、予防も十分可能な疾患です。体のために、確実な予防を!

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。