「ランチョンテクニック」という言葉をご存じですか? 米国の心理学者、グレゴリー・ラズランが1938年に発表した研究結果。「食事中に提示された意見は、好意的に受け取られる」という交渉方法の1つで、確かな効果がもたらされるというものです。

実際にビジネスや政治の多くの場面で利用されています。なぜ、食事中ならうまくいく可能性が高いか、というと、口に物が入っていることで、その場での反論を取りやめてしまう、口に物が入っていると、注意力が散漫になる、などの理由が挙げられています。

欧米では、ビジネスの相手をランチに誘うことが多く、このテクニックが用いられるようになったようです。飲食しながら相手と交渉する方法で、うまいものを食べながらではネガティブな内容の話をしづらい、という心理状態をついたものと思われます。

「ランチョン-」の実験としては、米国の心理学者、ジャニスの「フィーリング・グッド」効果が有名です。食事をしながら、評論を読むグループと何も食べずに評論を読むグループに分けて、評論に対する意見に差が出るかどうか、を検証したものです。

結果は、食事をしながら評論を読んだグループのほうが、圧倒的に評論の意見に賛成していました。人間は食事をするとき「快感状態」になり、打ち解けやすくなる、とみられています。それと、ものをかむ行為は脳の運動を活性化させる働きがあり、イライラを起こす「β(ベータ)波」を抑える効果もあるようです。

効果がもたらされるのは、ビジネスの世界だけではありません。ランチやディナーなどをデートプランに盛り込むのも有効でしょう。ことに初対面の相手とデートするときなど、何を話せばいいか、戸惑いがち。食事は打ち解ける時間を早めてくれることでしょう。

でも、注意も必要。おいしい食事を食べたときは交渉に効果的ということは、まずい食事をしたときのネガティブな感情も、相手の印象につながってしまう可能性があるということですから。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。