1位僧侶、2位実業家、3位政治家…。このランキングが何か、わかりますか? 長生きできる職業のランキングに関する調査結果なのです。もう35年ほど前の調査になりますが、「仕事が平均寿命に関係するのではないか」という仮説に基づいて、福島県立医科大学の森一教授が「昭和55~57(1980~82)年における10種の職業集団の平均死亡年齢と死因に関する調査」を実施したものです。ちなみにこれには、僧侶は奈良時代から長寿の職業と記載されています。

僧侶が長生きの理由としては、当時の僧侶の食生活として「精進料理中心で食べすぎなどに注意して、節制を心がけたこと」や「瞑想(めいそう)の時間をとり、ストレスをためることなく、精神的なゆとりを持ったこと」が挙げられました。

調査当時の僧侶はあまり肉をとらなくても長寿だったようです。今は肉類を適度に取り入れることで、さらに健康的でより長生きできている可能性もあります。ちなみに同じ僧侶でも、タイでは昨今、托鉢(たくはつ)による栄養過多でメタボや肥満に悩む傾向があるといいますから、もちろん、時代が変われば、事情も変わるかもしれません。

現代社会はストレスに満ちあふれ、暴飲暴食など生活習慣も乱れています。忙しい中でこそ、僧侶の生活を参考に、瞑想して交感神経の高ぶりを抑え、食事なども節制すれば、動脈硬化や血管の病気になることもなく、長生きできるでしょう。

かといって、行きすぎた健康管理は逆に寿命を縮めるかもしれません。フィンランドの研究で、1200人の被験者を砂糖や塩分を控えてたばこやお酒を制限したグループと、特別指示せず気ままに生活させたグループの2つに分け、15年後に健康調査を行った結果、後者の方が軒並み数値が良かったそうです。

食事などを過度に制限することは、精神的ストレスにつながるため、体内の活性酸素を増やし、細胞の老化、がんの発生などにも関与する可能性があるようです。味覚を満たして満足するのも、長生きにつながるという結果なのかもしれません。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。