わたしは「ドラえもん」が大好きなのですが、今日はドラえもんではなく、そのよき(?)パートナー、のび太くんのことについて触れます。のび太くんは、ママに似ず勉強が苦手なだけではなく、パパに似ず俗にいう運動神経もよくありません(射撃は得意)。でも、ドラえもんの繰り出す道具を使わずに、たびたびものすごい力を発揮することがあります。

「ドラえもんプラス(藤子・F・不二雄著=てんとう虫コミックス)」4巻の「ドラえもんとドラミちゃん」では、故障したドラえもんを背負って走ったこともあります。ちなみにドラえもんの体重は、129・3キロだそうですから、驚異的な力です。

これは、「火事場のばか力」といわれる現象です。この「火事場のばか力」は、精神的に窮地に追い詰められた状況になった際、体の中の交感神経(自律神経の1つ)が異常に興奮することにより、副腎という臓器からアドレナリンというホルモンなどが爆発的に分泌されることで起こります。

通常の状態では、全力を出したつもりでも実際には筋肉を70%くらいしか使っていないのですが、火事など異常に興奮した状況では、筋肉を100%使うことが可能なことから、こう呼ばれます。

ただ、このように筋肉を100%使うとき、気を付けることがあります。それは、歯を食いしばってはいけない、ということです。一流のスポーツ選手の場合、そのほとんどは、歯を食いしばるような無駄な力は使っていないのが現実です。実際、米大リーグの選手は歯を食いしばるどころか、ガムをかんで、リラックスしてプレーしているように見えます。体の力を抜いたリラックス状態のほうが、集中力を発揮でき、よい成績を残せることを経験的に知っているのでしょう。

歯を食いしばるのは、体に非常に悪いことなのです。関節に負担がかかるので顎(がく)関節症になったり、歯にひびが入ったりして、虫歯や歯周病の原因になります。部分的に歯に強い圧がかかると、知覚過敏になる、歯並びが悪くなる、かみ合わせが悪くなる、ほうれい線が目立つようになる、えらが張って見える、筋肉が緊張して肩こりや頭痛の原因になるなど、デメリットがたくさんあります。どうしてもリラックスできない人は、マウスピースを装着してみるのもいいかもしれません。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務める。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。