風呂上がりに綿棒での耳掃除をかかさない、という人は多いでしょう。でも実はその耳かき、必要ないのです。

耳の穴(外耳道)は骨部と軟骨部に分かれていて、骨部が内側、軟骨部が外側です。皮膚は鼓膜がある内側から外側へ移動するようにできているため、正常であれば奥に耳垢(みみあか)はたまることなく、軟骨部と骨部の移行部まで出て来ます。ですから、耳垢を取ることは医学的には不要なのです。

正常な耳垢には雑菌の繁殖を抑えて皮膚を保護する働きがあり、一般的には頻繁な耳垢取りは不要と考えられています。耳かきは、外耳道が刺激されて気持ちはいいのですが、深くまでやると外耳道を傷つけてしまう恐れがあります。

耳かきをすることで起こりやすいトラブルは、外耳道炎、耳の中のおでき、耳せつ(急性限局性外耳道炎)のほか、誤って鼓膜を傷つけることなどです。また、耳かきをやりすぎて外耳道の炎症が悪化し、がんが発生した例もあるそうです。

ちなみに、耳かきという道具は、3000年前の中国にありました。日本では平安時代末期頃が最古の記録で、当時は簪(かんざし)の一部として使われていたようです。世界的に見ると、耳かきを使用しているのは日本と中国くらいで、米国や欧州では綿棒です。これには理由があります。耳垢が乾いているか湿っているかの違いです。

耳垢には乾性耳垢(乾燥した耳垢)と湿性耳垢(湿った耳垢、俗にいう「べた耳」)がありますが、中国や韓国では湿性耳垢は4~7%。日本人では16%で、白人では90%以上、黒人では99・5%も占めています。乾いているから耳かきでこそぎ、湿っているから綿棒でぬぐうというわけです。

耳かきエステなどもはやっていますが、あくまで気持ちを良くするためのもの。耳垢は自然に排出されるので、医学的には耳垢を除去しなくても大きな問題は生じないのです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務める。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。