警察庁の調べによると、2018年1年間に認知機能検査を受けた75歳以上の高齢ドライバー、約216万5000人のうち、2・5%に当たる約5万5000人が「認知症の恐れ」と判定されました。「認知機能低下の恐れ」を合わせると、約27%に認知機能の衰えが認められたことになります。

高齢ドライバーが引き起こす事故には、この認知機能の衰えに起因するケースもあり、17年3月施行の改正道交法で現行の認知機能検査が導入され、運転免許証更新時に認知症が疑われれば、医師の診断が義務付けられました。

認知症の患者数は、推定462万人とされています。ただ、認知症と年を取っていけば誰にも起こる物忘れとは、違います。例えば「今朝何を食べたのか忘れた」は、単なる物忘れですが、「朝食をとったこと自体を忘れてしまう」のは、認知症の可能性が高くなります。また、「テレビのリモコンを置いたところを忘れる」のは物忘れ。「操作法を忘れたり、リモコンが何をするものかを忘れる」のは、認知症の疑いがあります。

認知症患者もさることながら、その予備軍である「軽度認知障がい」にも注目されます。健常状態とも認知障がいともいえないグレーゾーンであるこの状態の人も、推定で400万人いると言われています。また、軽度認知障がいの人が何の対策も講じないと、その50%が5年以内に認知症に進行する、と言われています。認知症と軽度認知障がいを合わせて、800万人以上もの人々が認知症及びその予備軍となります。これは、もはや社会問題といっていいでしょう。

軽度認知障がいや認知症の初期症状としては、次のようなものがあります。(1)同じことを何度も言う(2)「この人、あれ、これ」などという言葉を使うことが多い(3)単純な計算に苦労する(4)モノをどこに置いたか忘れる(5)会計をするときに小銭を出さなくなった(6)身なりがだらしなくなる

3個以上あてはまれば危険だということです。また認知症初期チェック法の「スマヌ法」をご存じですか? 他の人に、自分の背中に「ス」「マ」「ヌ」のいずれかの文字を指で書いてもらい、書かれた文字を当てることができるか、というもの。これにより、感覚機能の低下を判断できるそうです。6回中、3回以上間違えたら認知症予備軍の疑いがある、ということです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務める。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。