「嫌われた監督」鈴木忠平が描くプロ野球の情景〈1〉川崎憲次郎

「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」で各賞を総なめにした、ノンフィクション作家の鈴木忠平氏。長くプロ野球の番記者を務めた日刊スポーツ時代より、印象に残っている情景を書き下ろしていただきました。その場にいるかのような描写。主人公の陰影。客観視した自分自身の機微。読み切りのエッセー、だからこその魅力が詰まっています。11月は14、21、28日と毎週月曜日に公開の「随想録 鈴木忠平」をお楽しみください。

プロ野球

鈴木忠平(すずき・ただひら)1977年(昭52)千葉県生まれ。名古屋外国語大学を卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。中日、阪神などプロ野球担当記者を16年間経験したのち退社し、文藝春秋Number編集部に所属。現在はフリーのノンフィクション作家として活動している。「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」(文藝春秋刊)でミズノスポーツライター賞、大宅壮一ノンフィクション賞、本田靖春ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。最新刊に「虚空の人 清原和博を巡る旅」(文藝春秋刊)がある。

2004年のシーズン開幕戦、私はまだ陽が高いうちにナゴヤドームの駐車場に立っていた。ナイターのプレーボールまでにはまだ随分と時間があったが、ひとつ気がかりなことがあった。担当している中日ドラゴンズの開幕投手がはっきりしていなかったのだ。

当時はまだ先発投手が公表されていなかったが、開幕ゲームだけは何らかの形で公然となるのが慣例だった。だが、この年はチーム情報が閉ざされ、新聞各紙の予想も野口茂樹か、川上憲伸か、左右のエースで割れていた。

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1977年千葉県生まれ。名古屋外国語大学を卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。中日、阪神などプロ野球担当記者を16年間経験したのち退社し、文藝春秋Number編集部に所属。
現在はフリーのノンフィクション作家として活動している。「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」(文藝春秋刊)でミズノスポーツライター賞、大宅壮一ノンフィクション賞、本田靖春ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。
最新刊に「虚空の人 清原和博を巡る旅」(文藝春秋刊)がある。