「何クソ」が出ない若手 力を引き出すために気づいたこと/巨人阿部慎之助の指導論

阿部慎之助は今、何を考えているのか。将来ある青年たちと向き合った、2軍監督の2年間で得た信条は。現役時代から取材を続ける為田聡史記者が、ロングインタビューを送ります。

プロ野球

巨人阿部慎之助1軍作戦兼ディフェンスチーフコーチ(42)が日刊スポーツの単独インタビューに応じた。19年の現役引退後し、昨季までの2年間は2軍監督として、将来ある若手選手と向き合った。培った指導論には一般社会にも通ずるノウハウが点在していた。

2022年2月16日、ノッカーを務める阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ

2022年2月16日、ノッカーを務める阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ

――厳しく指導した1年目の経験を踏まえ、2年目は「観察」に徹した。口を出さない〝見守り型〟の指導とは

ミスを指摘しませんでしたね。いいプレーをしたときは少々、大げさなぐらいに称賛するように心がけた。今まではホームラン、得点が入って、ベンチに帰ってきた選手はグータッチで出迎えましたが、昨季はバントとか自己犠牲のプレーをした選手も、必ずグータッチで出迎えました。

――選手たちの変化は

このスタイルの方が、選手たちの本当の姿が見えるなと思いましたね。持っている能力以上はなかなか出ないんだけど、今の持っている能力が「10」だとしたら、厳しい言葉で指導すると「6」しか出ない。こちらが言わないことで「7」「8」ぐらいまで出せればいいなと。現実はそうでしたね。

2022年2月17日、阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ(左)は秋広とグータッチを交わす

2022年2月17日、阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ(左)は秋広とグータッチを交わす

――「真面目」「本気」「真剣」。選手が成長していく過程には心境、取り組みへの変化がある。どう導いていくのか。

真剣に話をして、本気にさせることだと思いますね。どの選手も真面目。そこから、どう本気に、真剣にさせるか。

――「本気」とは

簡単な言葉のようで、すごく難しい。「本気になれ」「本気でやれ」とよく言うけど難しい。

――「真剣」とは

質問の答えとは違うかもしれませんが、昨年は「真剣に見た」という1年でしたね。覚えている限り、強い口調で選手たちに指導したのは1、2回だけだった。それは1年目、あれだけ厳しく指導したら、選手たちは萎縮してしまうというのに気づいた。

「何クソ」というものを期待したんですが、萎縮させてしまったら、落ちて、落ちて、引いていく。指導者側がフォローして救ってあげないと、はい上がってこない。若い世代の選手たちの特性を学びました。

2021年10月21日、亀井の引退会見の最後にサプライズで登場した原監督(左)、阿部作戦コーチ

2021年10月21日、亀井の引退会見の最後にサプライズで登場した原監督(左)、阿部作戦コーチ

――19年に現役を引退し、指導者1年目は選手たちに厳しく接した理由は

自分も若いころに厳しく指導されたからとかではない。阿部慎之助ぐらいに言われて萎縮していたら、活躍できないよというメッセージでもあった。選手たちに伝えたのは「東京ドームが満員になれば、4万人を超えるファンの8万個の目で見られている中でプレーする。

チャンスで凡退したとき、スタンドの3万5000人のジャイアンツファンのため息が、『あぁ~』って聞こえてくる。それに耐えなければいけない」と。そういう状況に耐えて、跳ね返して、次こそはと思えるようなるために、厳しく、強く、言っていました。

――厳しい指導は不要なのか

選手たちに厳しく指摘した内容は、うまい、下手ではない。当たり前のことができなかった。同じことを何度も言われていた。だから、みんなの前で厳しく指摘した。みんなの前で言ったのは、「みんなも同じだぞ」と。同じミスをしていたら、プロじゃない。

自分自身もミスはたくさんした。切り替えることは当然だけど、絶対に忘れてはいけない。キャッチャーフライを落としたときの写真をロッカーに貼って「絶対に忘れるな」という自分への戒めとしてやっていた。選手たちが自分自身に対して、厳しさを持てれば厳しさは必要ないのかもしれませんね。

2021年10月5日、ヤクルト戦前の円陣で注目を集める巨人阿部作戦コーチ(中央)

2021年10月5日、ヤクルト戦前の円陣で注目を集める巨人阿部作戦コーチ(中央)

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