【右投げ左打ちの功罪〈1〉】なぜ日本には左打ちが多いのか? 調査報道で探る

右打ちと左打ちは、どちらが有利なのか? 誰もが抱く疑問に、野球記者歴32年のベテランが挑みました。調査→仮説→取材を繰り返す「調査報道」の手法で核心に迫ります。(全15回掲載)

その他野球

◆小島信行(おじま・のぶゆき)プロを中心とした野球報道が専門の記者。取材歴は32年目を迎え、非公式戦を含めると約5000試合を取材している。現在は、主に評論家と向き合う遊軍。技術に対する理解が深く、10年目に入った企画「解体新書」のメイン担当を務める。チーム担当歴は巨人、ヤクルト、西武。

★セパで数字に差…DH有無の影響

右打者と左打者にはさまざまな違いがある。同じ左打者でも、左右の利き手の違いがあり、スイッチヒッターのように両打席で打つ打者もいる。

個々の身体的な特徴や環境の違いによって、左右のどちらかの打席に入るわけだが、いったいどちらの打席で打った方がいいのだろうか?

おそらく、この疑問に明確な答えを示せる人はいないだろう。さまざまな角度からの分析や統計、専門的な知識を持つ関係者の取材を基に、この難問への答えに近づいていきたい。

2021年6月22日、ロッテ戦で右越え2ランを放つソフトバンク柳田

2021年6月22日、ロッテ戦で右越え2ランを放つソフトバンク柳田

まず始めに、単純な統計を紹介してみたい。21年のプロ野球12球団で規定打席に到達した打者は、セ・リーグ32人、パ・リーグが29人。セがパよりも3人多いだけで、合計は61人だった。

規定打席に達した選手はほぼレギュラーだと仮定してもいいだろう。

左右のどちらの打席に立っているか内訳する。

右投右打 セ17、パ8、合計25

右投左打 セ13、パ19、合計32

左投左打 セ2、パ2、合計4

右投両打 セ、パともに0

右打者の合計が25人。右投げ左打ちが32人で最も多く、左投げ左打ちが4人。左打者の合計は36人だった。

大きな偏りがあるのは、パの左打者が多いこと。

セは右17人、左15人でほぼ均等なのに対し、パは右8人で左21人。

同じ日本球界でありながら、この「不自然さ」がどうしてなのかを考えてみた。

2021年8月21日、押し出し死球を受けるオリックスT-岡田

2021年8月21日、押し出し死球を受けるオリックスT-岡田

セとパの野球で明確に違うのは「DH制」の有無が挙げられる。

パの投手は報復死球の心配がなく「内角を厳しく攻められる」というメリットがある。さらにDH制はスタメンに野手が1人多くなるため、それだけ厳しく攻めなければいけない状況が増える。

今季、規定打席に達した打者の死球数を比べても、セが133個、パが160個。

規定投球回数をクリアした投手の死球数を比べると、その差は広がってセが38個でパが82個。

平均してもセの投手は年間で4・22個で、パの投手は5・85個。「内角攻め」はパがセを圧倒している。

オリックス対ソフトバンク 4回裏オリックス1死一塁、吉田正は死球を受けて交代する(撮影・前岡正明)

オリックス対ソフトバンク 4回裏オリックス1死一塁、吉田正は死球を受けて交代する(撮影・前岡正明)

死球数を左右の打者で分けてみよう。

右打者が75死球 左打者は58死球

右打者が46死球 左打者は114死球

この数字を1人の打者で平均すると

右打者4.41死球 左打者3.86死球

右打者5.75死球 左打者5.42死球

死球の総数では一番少なかったパの右打者が、死球率ではトップ。「内角攻め」は圧倒的にセよりパが多く、右打者の方が厳しく攻められる傾向がある。

日刊スポーツ評論家・和田一浩氏技術的に言えば、内角攻めをされれば、右打者の方が左打者より不利になるでしょう。野球は打った後に一塁に走る競技。内角を攻められると、右打者は窮屈になりやすい。その点、左打者は開いて「走り打ち」でごまかせますから。

パには左腕が少ない可能性があると思っていたが、21年に規定投球回数に達した左腕は、セが2人でパが4人。右腕はセ・パで17人いた。左腕の先発はパの方が多く、左右の被打率を比べると

小笠原以外の左腕は、本来は有利とされる左打者の方が打たれている。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。