【右投げ左打ちの功罪〈6〉】日本は長打力に低評価「大振り」「思い切り振る」の違い

「調査報道」のスタイルで、右打ちと左打ちの優位性に迫る大型連載。ピラミッド型が成熟している日本球界では、あるカテゴリーから右打ちが激減します。(全15回連載)

その他野球

★打撃の原点を突き詰める

日本の高校野球で右打者の比率が大きく減る要因として、長打に対する重要度が低い点も考えられる。

高校野球に限ったことではないが、日本では打者の能力評価する基準が「打率」と「本塁打」で分かれている。

打率は3割が一流打者の目安で、本塁打は30発あたりが高評価の基準といっていいだろう。

しかし、一般的に打者の評価は打率に重きを置く風潮の方が強い。メジャーのように長打力を含めた「OPS」のような評価基準も浸透していない。

2016年1月10日、オリックス合同自主トレ初日から、持ち前のフルスイングを披露する吉田正

2016年1月10日、オリックス合同自主トレ初日から、持ち前のフルスイングを披露する吉田正

特に高校野球では、本塁打より打率、出塁率が重要視されている。

「長打が少ない」が大前提になっていて、戦術面でも送りバントが多用される。

小柄な日本人では仕方のない部分もあるが、個人の打撃能力の成長という点で考えると、やはりマイナス要因になる。

日刊スポーツ評論家・和田一浩氏バッティングは、思い切り振ることから始まります。思い切り振ってみて「なぜ当たらないんだろう」とか出てくる。ここで当てにいくように振っていたら、いつまでも飛ばないまま。仮に当たるようになっても、飛ばそうと思って振ったらスイングが変わってしまう。それじゃ意味がない。思い切り振る中で、どうしたら当たるんだろう? どう振ったら飛ばせるんだろう? ってとこが出発点。それを自分で考えたり、人から教わったりして、技術は上がっていくんです。

2018年12月8日、野球教室でフルスイングの見本を見せるソフトバンク柳田

2018年12月8日、野球教室でフルスイングの見本を見せるソフトバンク柳田

思い切り振ろうとすれば力が入りすぎ、体が開き、ドアスイングになりやすい。本来、ダメな打ち方をしたときの結果を指して「大振り」と怒られるのであって、「思い切り振る」ことが悪いのではない。

右投げ左打ちよりも長打力を「売り」にできる右打者にとって、不利な現象につながりやすいと言ってもいいだろう。

大事なのは、思い切り振るためには技術が必要だということ。

それでは「フルスイング」するとき、技術面での左右の有利不利はあるだろうか?

日刊スポーツ評論家・和田一浩氏どちらも一長一短がありますね。思い切って振ろうとすれば、利き手が後ろにある右打者はバットのヘッドをこねて使いやすくなってしまう。逆に利き手が前になる右投げ左打ちの打者は、グリップの位置が体から離れてしまう。ただ思い切り振るだけなら、フォロースルーが大きくなりやすい右投げ左打ちの方が簡単かもしれませんね。右投げ左打ちより、右投げ右打ちの方が技術的には難しいでしょうね。でも、フルスイングは強い打球を打つためにやるんです。遠くに飛ばすなら、後ろ側にある右腕で押し込んで打てる右打者の方が、絶対に有利だと言えるでしょう。

2021年7月8日、JR東海の臨時コーチに就任し、テニスラケットを使った打撃練習を披露する和田氏(右)

2021年7月8日、JR東海の臨時コーチに就任し、テニスラケットを使った打撃練習を披露する和田氏(右)

前回の章で触れたが「ゴロを打て」は右打者の上達を阻害し、右投げ左打ちは悪影響を受けにくいと指摘させてもらった。

同じように、長打力が重要視されにくい高校野球は、右打者が育ちにくい環境といえる。

ここでひとつの疑問が解消したのではないだろうか。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。