【右投げ左打ちの功罪〈7〉】上原浩治氏が証言「一塁が近いと考えるのは日本人だけ」

左打ちの割合が、高校野球から一気に増える…日本に根強く横たわる「俊足神話」に着目したベテラン記者は、現役の名球会選手、メジャーで大活躍したOBと、確認に走ります。(全15回連載)

その他野球

★山田哲人の特異性

日本球界で「右投げ左打ち」が多い一番の要因は「左打者の方が一塁ベースまで近い」という理由が挙がるだろう。

バッターボックスから一塁ベースまでの距離は、右打席より左打席の方が1歩ほど近い。

右打ちの俊足選手が「足を生かすために左で打て」と指導者に言われ、左打ちに変更した例はたくさんある。21年に通算2000安打を達成した、右投げ左打ちの西武栗山巧外野手に聞いてみた。

2021年9月5日、右前打を放つ栗山

2021年9月5日、右前打を放つ栗山

栗山ぼくは、小学生のころに教わった指導者が「左打ちの方が教えやすいから」と左打ちに変えました。ただ左に変える一番多い理由は、足の速さでしょう。プロでも右投げ左打ちは足の速い選手が多いでしょ。そういう選手はバネもあって身体能力が高いから、プロにもなれる。活躍する確率だって上がるでしょう。

この意見に異論はない。最近10年で、セとパの盗塁王と、盗塁のトップ5に入った選手を左右の打者に分けて集計した。

☆盗塁王

右/右5回

右/左13回

左/左4回

両打2回

☆盗塁トップ5

右/右32人

右/左50人

左/左16人

両打 6人

予想通り、右投げ左打ちが圧倒的。これだけ多いのは、もともと左打ちだったというより、足の速い選手が左打ちに転向したと考えていいだろう。

盗塁王を獲得した右投げ左打ちは、10選手もいるようにバラエティーにも富んでいる。

2019年8月29日、二盗を決めるヤクルト山田哲人

2019年8月29日、二盗を決めるヤクルト山田哲人

盗塁王の右打者は、5回のうち3回もヤクルトの山田が獲得している。他には日本ハム時代の陽岱鋼(2013年)と、ロッテの荻野(2021年)の2人だけ。

複数回で盗塁王になったのは、右投げ左打ちでは日本ハムの西川が4回。左投げ左打ちは阪神の近本、スイッチヒッターは西武の金子がそれぞれ2回。右投げ左打ち以外で盗塁王を狙える選手は、限られている。

では、アメリカでは足の速い選手を左打ちに転向させないのだろうか?

現在、アメリカのUCLAで長男が野球をやっている上原浩治氏に聞いてみた。

2014年1月13日、子どもたちに投球のお手本を示すレッドソックス上原

2014年1月13日、子どもたちに投球のお手本を示すレッドソックス上原

日刊スポーツ評論家・上原浩治氏だいたい、一塁に近いから左打席の方が有利とか考えるのは日本人だけでしょう。打てそうだと思った打席で打つ方が自然。むこうの指導者は、技術指導だって、選手が聞いてこなければ教えない。強制して悪くなったら、指導者の責任問題になっちゃう。右で打っている子を指導者が左にするなんて、まずないでしょうね。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。