【右投げ左打ちの功罪〈11〉】1本足打法の功罪…「上から打て」流行と右打者の衰退

打撃を極めた名球会打者たち。右打ちと左打ちの内訳を調べてみると…バットの歴史に端を発した野球観の変化が、深い影響を与えています。

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★篠塚和典氏の回顧

野球に興味のある方なら、上半身裸の王貞治が、薄暗い部屋で素振りをしている映像を見たことがあるのではないか。

日本刀をバットに見立てて振っている映像も有名だろう。右足を高々と上げて打つ独特な打撃フォームは「フラミンゴ打法」「1本足打法」と呼ばれ、極端なダウンスイングで練習する姿は王氏の代名詞といっていいだろう。

66年10月、荒川さんの「荒川道場」で真剣を使って紙を切る王貞治

66年10月、荒川さんの「荒川道場」で真剣を使って紙を切る王貞治

日刊スポーツ評論家・篠塚和典氏当時は王さんの影響が強くて、コーチからも「上から打て」と言われてダウンスイングの練習をさせられることが多かったね。他球団も、そう教えられることが多かったんじゃないかな。俺もやらされたよ(笑い)。でも王さんは素振りでは極端なダウンスイングをしてたけど、試合での打ち方は違った。アッパー気味のスイング軌道で、下からバーンと打つ感じ。おそらく何も考えずにバットを振ると、バットが下から出すぎる感覚があったんじゃないかな。だから素振りでは、ダウンスイングで振っていたんだと思う。

1974年7月、王貞治の打撃フォーム

1974年7月、王貞治の打撃フォーム

確かに試合で打っている映像を見ると、素振りとは正反対のスイングをしていると言っていい。自分の悪い癖を矯正するために、極端な動作で練習していたのではないか?

篠塚氏そうだと思う。王さんは左投げ左打ちで、後ろの腕を使って打つ。だからアッパーになりすぎないようにダウンスイングで練習する。下からバットが出すぎる選手には上から打てと教えるし、逆に上から出すぎる選手には下から打てと教えるのと一緒。そこを理解しないで教えたり、教わったりすると試合で打てなくなるよ。

当時は、監督やコーチの意向が強く反映する時代だった。強制的に「上から打て」と指導されることが多かった。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。