【勝負師の心理】違反投球問題と同じ…「違反でも、みんなやっているじゃない!」

現場取材歴が長いベテラン記者が、さまざまな角度から「サイン盗み」を考察します。連載第12回は「勝負師の心理」。「サイン盗み」と「違反投球」。全く違う問題に見えますが、根底には同じ考え方がありました。(2019年5月23日掲載)

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つい先日、メジャーに移籍した菊池雄星投手が、帽子のツバに松ヤニなどの滑り止めを付けて投球しているとの報道があった。

「サイン盗み」とは別問題じゃないか、と思う読者もいるだろうが、この一件と「サイン盗み」がなくならない要因は、とても似ている。ひと言でいうなら「違反といっても、みんなやっているじゃない!」に尽きる。

違反投球について補足しておこう。松ヤニやクリームなどを指先に付けて投げれば、リリース時にグリップ力が強くなり、ボールに強い回転をかけられる。

しかし、もともとは、すっぽ抜けの投球を減らすための工夫として考えられた行為だ。メジャー球を手にしてもらえば分かるが、とにかく滑る。すっぽ抜ければ、打者への死球は確実に増える。

だから菊池が違反投球をしていると分かっても、対戦チームだったヤンキースの選手たちは「バレるのが悪いのであって、滑り止めをつけるのは問題ない」となる。

野手からすれば、ぶつけられてケガをするより、強い球を投げられて三振する方がマシ。投手は文句を言われないのなら、違反投球をして成績を上げた方が得となる。

日本の使用球はメジャー球ほど滑らないが、昔からこの手の違反投球はあった。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。