編成担当から軒並みの賛辞「追いかけるのは楽しかった」/岡本和真あすなろの記〈4〉

巨人の岡本和真内野手(26)が、9月24日の中日戦(バンテリンドーム)で5年連続30本塁打をクリアしました。巨人では19年連続の王貞治、7年連続の松井秀喜に続く3人目。球団の右打者では初の記録です。プロ入り前の岡本を見守ってきたのが、智弁学園(奈良)の小坂将商監督(45)。中学1年の原石に一目ぼれし「こういう選手を育ててみたい」という一念が通じ、「智弁学園・岡本」は誕生しました。人並み外れた技術と体格を備えながら、人より目立つことを何より苦手とした少年が、老舗球団の看板打者に。胎動を追いました。(文中敬称略)

高校野球

阪神中村GM「打球のすごさが違う。モノが違うよ」

2014年、岡本和真の高校最後の夏は初戦で終わった。

明徳義塾(高知)に4―10と完敗。だが同年の選抜大会でバックスクリーン弾を含む2アーチを放ったスラッガーは、プロの高評価を不動のものにした。

「左への安打など、打球のすごさが違う。モノが違うよ。プロ球界全体を見ても、貴重な右の大砲候補。何より大舞台で見ても、将来のスター候補らしい雰囲気がある」

そう絶賛したのは、阪神GMの中村勝広(故人)だ。

明徳義塾戦をチェックする阪神中村GM(上から2人目)。岡本に対し、最大限の賛辞を贈った=2014年8月15日

明徳義塾戦をチェックする阪神中村GM(上から2人目)。岡本に対し、最大限の賛辞を贈った=2014年8月15日

高校生では済美(愛媛)の安楽智大(楽天)、前橋育英(群馬)の高橋光成(西武)ら投手陣、大学では早大の右腕・有原航平(レンジャーズ傘下3A)らが14年ドラフトの1位候補。野手では、岡本がトップ候補になった。

「野手ではトップクラス。間違いなく上位候補。キッチリ両方向に打ち分けられていた。勝敗で評価は変わらない」

岡本の初戦敗退を見届けた後、巨人のスカウト部長、山下哲治はそう語っていた。この巨人が岡本の運命の球団になるのだが、智弁学園の監督、小坂将商らは知るよしもなかった。

親心の心境 募る不安

とにかく、岡本の行く末が心配でならなかった。五條東中1年から見守り続けた才能は、本物。間違いなくプロに行ける、と確信できた。ただ、何が起こるかわからないのがドラフト。

「志望届を出したら指名はある、とは思っていました。でも、だんだんドラフトが近づいてくるにつれ、新聞にも大きく記事が載る。テレビも含めて、岡本取材のケースが増える。これはドラフト1位じゃなかったら…かわいそうやなって思いました」

ドラフト前日の岡本。守備に一抹の不安があり、明鏡止水の心境とはいかなかった=2014年10月22日

ドラフト前日の岡本。守備に一抹の不安があり、明鏡止水の心境とはいかなかった=2014年10月22日

小坂は当時の不安を、そう振り返る。言うまでもなく、打者・岡本の才能には100%の信頼を置いていた。「ドラフト1位」と信じ切れなかったのは、野手としての才能だった。

打席ではあれほど光を放つのに、三塁の守備位置では所在なげにしていた中学1年生の姿が頭から離れなかった。

古代の王国トロイを発見したシュリーマンにあこがれ、考古学者を目指して西洋史学科に入学するも、発掘現場の過酷な環境に耐えられないと自主判断し、早々と断念。
似ても似つかない仕事に就き、複数のプロ野球球団、アマ野球、宝塚歌劇団、映画などを担当。
トロイの 木馬発見! とまではいかなくても、いくつかの後世に残したい出来事に出会いました。それらを記事として書き残すことで、のちの人々が知ってくれたらありがたいな、と思う毎日です。