サッカー女子のなでしこジャパンに贈られた国民栄誉賞の副賞は「世界一の化粧筆」だった。筆の産地として有名な広島県熊野町の化粧ブラシ専門メーカー「竹田ブラシ製作所」の商品で、きりの箱に入った7本セットで定価3万4650円の高級品だ。3種類の動物の毛を使ったもので、柔らかく顔の凹凸に沿う肌触りの高い品質で、ファッションの本場パリの業界関係者から世界一と評価されていた。

 世界一の化粧道具が、ピッチ外のなでしこメンバーを彩る。枝野幸男官房長官は、国民栄誉賞の記念品として贈られた化粧筆が広島県熊野町産の「熊野筆」と明かした。書筆の技法を化粧筆に応用した高級メークブラシで、「世界一に輝いたチームにふさわしいものとして、世界に誇れる日本の伝統工芸品の中から選んだ」と説明した。

 国民栄誉賞の副賞は、100万円を目安にした記念品が慣例だが、今回は初めて団体に贈られ、女性が多いことが考慮された。7本セットの1本1本に選手名が書き入れられた。男性スタッフの化粧筆には「国民栄誉賞記念品」と書かれ、妻や恋人が使用できるように配慮したという。

 熊野筆は江戸時代末期に製造販売が始まり、書道用筆、絵画用の画筆、化粧筆、出産記念で作られる誕生筆の4種類に分かれる。

 今回の副賞を作った竹田ブラシ製作所は、1947年(昭22)創業。化粧ブラシ一筋で、原材料の厳選と技術の向上、限定生産で高い品質を追求してきた。経済産業省のアドバイザーを務める広島市在住のコンサルタントの紹介で、大役を任された。

 竹田史朗社長(67)は「国民栄誉賞の副賞に選んでもらうのは、大変名誉なこと。いつもよりもさらに真剣に、より注意して作りました」と話した。筆先が自在に動き、化粧品を均一に伸ばし、艶(つや)も出るという。「パリの関係者から『お前のは世界一だ』と言ってもらったことがあります」と明かした。

 今回の7本セットは市販品。フェースブラシとアイシャドーブラシ大はリス、チークブラシはヤギ、その他の4本はイタチの毛で出来ている。竹田社長は「リスの毛は繊細で腰が強い。ヤギの毛は化粧筆として最も広く使われていて、万能タイプ。イタチの毛は、毛先が広がらず、丸まろうとする特性があります」と解説した。

 なでしこメンバーには「きり箱に入れっぱなしにしないで使った方が長持ちします。もし毛先が傷んだら、付け替えもします」と話し「実際に使ってほしい」と希望していた。【柴田寛人】

 ◆熊野筆

 広島県安芸郡熊野町で生産されている筆。江戸時代末期に出稼ぎの農民が有馬地方(兵庫県)で筆作りを学び、同町で広めたのが起源。毛の1本1本にこだわった手作りが特徴。日本の筆生産量の約8割を占める。75年に毛筆業界で初めて伝統的工芸品に指定された。熊野筆の伝統工芸士は現在19人。同町で約2500人が筆関係の仕事をしている。竹田ブラシの製品は海外のトップアーティストから高い評価を受け、シャネルなどの高級ブランド店でも使用されている。