挫折を乗り越え復活を目指す新戦力・菅
- JT巻き返しのキーパーソン・菅
昨年NECからJTに移籍したセッターの菅直哉(24)が、徐々に存在感を発揮し始めている。まだ今シーズンの先発出場はないが、劣勢の場面で先発の井上俊輔(24)に代わって出場し、流れを変える役割を担っている。
菅にとって2009年は波乱の年だった。08/09V・プレミアリーグでは、1年目ながらNECの主力セッターを務めたが、チームの勝ち星が伸びずに苦しんだ。大学からVリーグへと環境が変わる中、自身のトスを見失い悩んでいた。自信を失い「トスを上げるのが怖くなった」というところまで追い込まれた。
さらに5月、NECが休部に。菅は愕然(がくぜん)とした。
「とにかく急だったので、ショックでした。まさか自分の身に起こるとは思ってもみなかった。それまでは、ずっとバレーができるんだと安心していました。今回は(JTで)続けるチャンスをもらえたけれど、あれ以来、いつバレー人生が終わるかわからないという危機感を持つようになりました」。
休部に揺れる思いを抱えながら、菅はユニバーシアード代表の主将を務めた。8月には全日本の北海道合宿に参加。そこでも挫折を味わった。
「ユニバーシアードでは、勝てると思ったところに勝てなくて、『この身長(178センチ)では難しいのかな』と感じたり、『どこまで頑張ればいいんだろう?』と先が見えなくなってしまった。その後の全日本合宿では早い段階で(選考から)落とされました。それまであまり落とされたことがなかったんですけど…」。
菅は大村工高でインターハイ優勝、筑波大では1年時から正セッターを務め、全日本インカレを連覇。ジュニア代表、ユニバーシアード代表(2007年)にも選出され、エリート街道を歩んできた。「大学生のころまでは、自分に自信があった」と振り返る。
しかしそうした華々しいキャリアが、知らず知らずのうちに、「自分は勝たなきゃいけない」「全日本に入らなきゃいけない」と菅を縛っていった。「考えすぎたり、上を見すぎて、自分がプレッシャーでつぶれてしまっていました」と菅。そんな中、昨夏の挫折が、その縛りから菅を解き放った。今シーズンの開幕前、JTのホーム広島での生活にも慣れた様子の菅が、吹っ切れた表情でこう語っていた。
「夏にいろいろな経験をして、自分は選手として力がないんだということに気づけました。その時は悩んだし苦しかったけれど、今は、『自分はヘタクソで、僕よりうまい人がたくさんいる。そこをどんどん越えていくだけだ』と考えるようになったので、楽だし、目の前に目標があるのでやりやすい。僕はJTに来たばかりで、井上の方がいいと言われているから、試合に出るためにはまず井上に勝たなきゃいけないし、丹山(禎昭)さんにも勝たなきゃいけない。それだけに集中できています」。
高校時代の恩師からアドバイスを受けたこともあり、徐々に思い描くトスが上がるようになっていた。
菅のJTでのV・プレミアリーグ初出場は、開幕4戦目、12月13日のサントリー戦だった。劣勢の中第2セット終盤からコートに入ると、ミドルブロッカーの速攻を効果的に使って攻撃を立て直し、第3セットを奪った。結果的に敗れたものの、バランスのよい組み立てや経験値の高さを垣間見せた。
身長190センチの高さを武器とする成長株の井上が先発し、劣勢になると菅を投入するというのがここまでのJTの戦いだ。菅の出場機会は限られるため、まだコンビネーションの精度に不安が残る。年内は2勝4敗と苦戦したJT。年明けの試合に向けて、菅は、コンビの精度を上げ、勝負所で自信を持って使える攻撃を増やすことを目標に掲げた。JTが新年の巻き返しを果たすには、苦悩の1年を乗り越えた新戦力の本領発揮が欠かせない。【米虫紀子】