今季世界最高記録が8種目で誕生したが、雨のなかで行われたこともあり歴代上位に入るパフォーマンスはなかった。注目された男子100メートルはリース・プレスコッド(22=英国)が10秒04で優勝。昨年の世界陸上金メダリストのジャスティン・ガトリン(36=米国)は7位と敗れ、日本からただ一人出場した桐生祥秀(22=日本生命)も9位と振るわなかった。

 健闘が目立ったのは地元の中国選手たち。女子やり投げでアジア記録保持者の呂会会(28)66メートル85で優勝したほか、各種目で上位に食い込んだ。

 甲高いかけ声とともに投じられた呂の3投目は、65メートルラインをはっきりと超えて着地。女子やり投げは昨年の世界陸上入賞者が5人も出場したが、60メートル台後半を投げたのは呂だけだった。

 その呂が「まず最初に」と口にしたのは、同僚への賛辞だった。

「砲丸投の鞏立姣の優勝を祝福したい」

 鞏立姣(29・中国)は女子砲丸投に19メートル99で圧勝していた。08年の北京五輪銅メダルから昨年のロンドン世界陸上金メダルまで、五輪&世界陸上のメダルを7個も取り続けてきた中国投てき界のヒロインである。中国はロンドン世界陸上で砲丸投げとやり投げでメダルを獲得し、円盤投げ、ハンマー投げでも入賞している女子投てき大国なのだ。

 呂も昨年のロンドン世界陸上予選で67メートル59と、劉詩穎(24)が持っていたアジア記録を更新し、決勝でも銅メダルを獲得した。自身も中国投てき界をリードしていく自覚がある。

「今日の自分の記録には少しだけ満足していますし、勝てたことはうれしく思います。しかし、まだまだ挑戦していきたいし、これからも成長をしていきたい」

 呂と劉は20日のゴールデングランプリ(大阪・長居競技場)に出場する。新旧のアジア記録保持者が大阪で、記録更新を目指して大アーチを投げ合う。

 中国勢の躍進は投てき種目にとどまらなかった。

 男子100メートルでも蘇炳添(27)が2位(10秒05)、謝震業(24)が3位(10秒17)に続いた。蘇は得意のスタートダッシュでリードし、謝は200メートルが専門のスプリンターらしく後半で追い上げた。

 男子走り幅跳びでは19歳の若手、石雨豪が8メートル43で2位に入った。ロンドン世界陸上金メダリストのルヴォ・マニョンガ(27=南アフリカ)に最終6回目で逆転されたが、東京五輪では金メダル候補に挙げられそうな成長を見せている。

 ロンドン世界陸上メダリスト全員が出場した男子棒高跳びでも、薛長鋭(26)が5メートル71で3位と健闘した。

 蘇(4×100メートルリレー)、謝(200メートル)、石、薛はゴールデングランプリにも出場する。中国勢が大阪でも旋風を起こしそうだ。

 

 ◆今季の男子100メートル

 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が昨シーズンで引退した100メートルは、今季の出だしが低調だ。

 現時点で9秒台は、4月21日に9秒97で走ったルーニー・ベイカー(27=米国)の1回だけ。上海大会でガトリンが7位、リオ五輪銅メダルのアンドレ・ドグラス(23=カナダ)が8位と敗れたように、有力選手がスロースタートとなっている。

 ベーカーは五輪&世界陸上の代表歴はないが、今年3月の世界室内60メートルで3位に入った選手。上海大会優勝のプレスコッドはロンドン世界陸上で7位に入賞しているが、自己記録は10秒03で、9秒98の桐生や10秒00の山縣亮太(25=セイコー)より下の選手。

 花形種目だけにさびしい状況だが、日本選手にとってはチャンスでもある。上海の桐生は最下位に終わったが、桐生に限らず国際大会へ挑戦して経験を積みやすいシーズンである。