10月に行われたWGC HSBCチャンピオンズで優勝した勢いをそのままに、圧倒的な強さで三井住友VISA太平洋マスターズを制した松山英樹(24=LEXUS)。日本ツアーに出場するたび、世界基準の力を見せつけ世界ランクも6位まで上昇している。

「ここでいい成績を出して、その流れでワールドカップへ行きたい。今週はすごく大事になる」

 三井住友VISA太平洋マスターズの前にワールドカップへの思いを語った松山。「宣言通り」の優勝を果たしたことで、いやが上にも期待が高まるのが、初出場となるワールドカップでの優勝争いだ。


●松山、石川の初タッグで挑むワールドカップ


 ワールドカップは国・地域別対抗の団体戦だ。28カ国からそれぞれ2人の選手が選ばれ、世界一をかけて争う。今年は24日からオーストラリアのキングストン・ヒースGCで開催。日本からは初出場となる松山と石川遼(25=CASIO)が代表選手として参戦する。それぞれ初日と3日目がフォアサム(1つのボールを交互に打つ)、2日目と4日目がフォアボール(それぞれ別のボールを打ち良い方のスコアを採用)でのストロークプレーによるチーム戦で行われるため、チームワークも勝負の行方を左右する重要な要素になる。

 そんな松山と石川のチームジャパンは、世界ランク最上位者として選抜された松山が石川をパートナーに指名したことで実現した。

 ともに1991年度生まれで米ツアーで戦う2人。PGAのデビューは石川が先だったが、2年遅れで参戦した松山は2014年にPGAツアー初優勝を遂げ、ここまですでに3勝を挙げている。

 そんな世界で戦う2人の日本人を、PGAツアーのコーチたちはどのように見ているのか。現地で話を聞いてみた。

今年の日本オープンで石川遼(左)と話しながらラウンドする松山英樹
今年の日本オープンで石川遼(左)と話しながらラウンドする松山英樹

●ショットを支える下半身


「ヒデキは素晴らしいショット力を持っている。これに関しては世界のトップクラスといってもいいだろう」

 松山より1歳年上で、PGAツアー4勝のパトリック・リードのコーチを務めるジョシュ・グレゴリーの評だ。

「スイングはオーソドックではない。切り返しの”間”は独特だね。コーチについていたら修正をされていたかもしれない。だが彼はその”間”を活かして飛距離と方向性を実現しているように見える」

 日本人離れした松山の飛距離の秘密は下半身にあるという。

「普通トップで”間”ができる選手は、切り替えしで上半身、特に手に力が入りやすくなる。プレッシャーのかかる場面や、フィジカルが万全でないとき手打ちになりミスが出やすくなるんだ。だけどヒデキの場合は、どんな場面でも、下半身リードのスイングが揺らぐことがない。足から動き始め、腰、上半身の順番に切り返していく。これが安定した方向性と飛距離につながっている」

 デビュー時に比べるとかなり下半身がどっしりとした印象を持つが、その下半身を中心にして、腕と手の動きを連動させてクラブをコントロールしている。飛距離と方向性を両立させたスイングは、強靭な下半身から生み出されているのだ。

 一方、PGAツアー選手を多く指導するパッティング・ショートゲームを専門コーチのマリウス・フィルマターは、松山をこう評価する。

「ヒデキのショットは一級品だよ。PGAツアーでは指折りのショットメーカーだ。課題はパッティングだろう。パターさえ入ればメジャーでも勝てる」

 PGAツアーではコーチを付けずにいる選手のほうがマイノリティーだが、そういった選手は往々にしてメカニックの部分の比重が重くなりがちになる。フィルマターはこう続けた。

「パッティングはアートだ。グリーンというキャンバスにどう球の転がりや球筋を描いて行くかが重要。自分の感性を磨きこむことも、彼がさらにステップアップするためには必要だと思う」


●石川遼は印象に残らない選手?


 一方、15歳8カ月で日本ツアーで優勝し一躍スター選手となった石川遼。英語では「リョウ」と発音するのは難しいらしく、コーチたちは一様に「リオ」と呼んでいたが、その印象は薄いものだった。

 米ティーチング殿堂入りし多くの選手のスイングを見てきたコーチ、マイク・アダムスは石川のスイングについてこう述べている。

「正直彼のスイングはあまり記憶に残っていないんだ。オーソドックスでお手本のようなスイングだからね。修正すべき”クセ”がなく、流れとリズムがいいという印象だよ」

 スイング以外の部分で、こんなことも言っていた。

「リオの課題は”考え過ぎ”なところにある。 テクニカルな練習が多いのにコーチをつけていないだろ? 自分で考えて実行することはとても大事だが、彼はスイングを変え過ぎる。もう少し方向性を決めてじっくり取り組むべきだ」


●もう一段上に行くため、2人に必要なこと


 2人に共通するのは飽くなき向上心だ。試合前後のコメントや練習の取り組みからも分かるように、現状への満足を感じることはほとんどなく、常に上を目指そうとしている。

 アスリートとしては非常に大切なことだが、メンタルの要素が大きいゴルフにおいては、現状を把握した上でパフォーマンスを最大化させるという部分も大事だ。

「2人とも常に『何かが足りない』と言っているが、すでに多くのものを持っている。それを引き出すことに軸を置いた方がうまくいく場合もある」

 前出のアダムスの言葉だ。

 コーチを付けるのが当たり前のPGAツアーで、コーチの指導を受けない選手は数名しかいない。今まで自分自身でスイングを構築し、活躍してきた2人ならバッバ・ワトソンのようにコーチを付けなくとも今まで以上の活躍ができるかもしれない。しかし、好不調の波を減らし、メジャーチャンピオンの常連になるためには、どこかのタイミングで優秀な参謀役のコーチを付けた方が良いと思う。個人的には型にはめるようなティーチング重視のコーチではなく、技術的な事はもちろん、練習の組み立てや目標設定、モチベーションを高めることまで指導可能なブッチ・ハーモンのようなコーチだと、2人のさらなる飛躍を見られると思う。

 世界で戦う2人の日本人はまだ24歳と25歳だ。次回のワールドカップ、そしてその先のメジャーで何度も世界を驚かせ、日本を沸かせてくれることを期待したい。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)