まずは1つ、お返しだ。ロッテがソフトバンクに先勝した。2点リードの9回2死二、三塁。内川のゴロを二塁クルーズが好捕した。一打同点を切り抜けると、伊東勤監督(52)は開口一番「オープン戦と違って、最後までしびれる試合だったねえ」。口元は緩んでいた。

 目指す野球が実現した。昨季チャンピオンが相手。開幕前日も「分厚くて高い壁」と認めるしかなかった。だが「どこかにヒビはある。そこを突けばいい」と続けた。ヒビを突け-。まるで選手への“暗示”となったような先制点だった。6回、先頭荻野が内野安打で出ると、二盗に捕手の悪送球が絡み無死三塁。前進守備でヒットゾーンが広がり、鈴木の中前打と続いた。もう1つ敵失があり、2点目を加えた。投げては、涌井が踏ん張った。再三、得点圏に走者を背負ったが、4番内川を2併殺。5番李大浩には2死球を与えたが、徹底して内を突いた結果だ。敵の新打線に仕事をさせなかった。バッテリーで、しのぎ合いを制した。

 就任3年目。伊東監督は力の差を受け入れている。「うちは1人1人の力は知れている。束になって、粘り強くやっていくしかない」。今季スローガンに「泥臭く」を加え、選手に意識させた。さらに、早々と開幕戦に照準を合わせた。昨季と同じ敵地のソフトバンク戦。1年前に3連敗の苦杯をなめた。2月1日の石垣キャンプ初日。全員を集め「3・27」と口にした。

 意地がある。「他球団はいっぱい補強しているけど、そういうチームを倒すのは醍醐味(だいごみ)。去年、開幕で3連敗した相手と、また当たる。『やり返せ』と言われているのだと思う」と静かに誓っていた。主砲のデスパイネは来日が遅れている。評論家の予想はBクラスが大半だ。逆風の中、持てる力を集め、巨大な壁を倒した。だが「まだまだ1つ。安心はできないよ」。返すべき借りは残っている。【古川真弥】