<巨人4-0阪神>◇28日◇東京ドーム

 土壇場で強さを誇る剛腕がチームを救った。負ければ0・5ゲーム差に迫られる阪神との首位攻防第3戦で、巨人沢村拓一投手(26)が今季初完封となる2勝目を挙げた。150キロを超える直球を軸に、今季初の2ケタとなる10奪三振。今季初観戦の母和子さんに届ける感謝の白星でもあった。ドラフト制後、プロ1年目から4年連続の完封勝利は堀内、江川、上原に次いで球団4人目。2位阪神と2・5差に広げる価値ある勝利だった。

 単なる喜びのパフォーマンスではなかった。勝利の瞬間、巨人沢村は両手を天に突き上げた。思いを込めたガッツポーズ。今季初観戦の母和子さんに向けた、感謝の表れだった。「母ちゃんが観戦に来たのは、プロに入って2回目。今日は絶対に勝ちたかった」。表で見せる強さの裏にある優しさ。家族を思う男は母に最高の勝利を贈った。

 母の後ろ姿に、誓った復活劇だった。2月3日から始まったリハビリ生活。4月上旬、肩の痛みはストレスに変わって、胃腸炎を発症した。「何で僕が…」。食事もとれず、苦しむ自分を助けてくれたのが、母和子さんだった。自宅を訪れ、体調面に注意を払った食事を用意。息子の復活を、誰よりも願ってくれた。

 「駅まで送るよ」。体調が回復した数日後、栃木の実家まで電車で帰る母を車で最寄り駅に送った。「体に気をつけて、頑張ってね」。優しくドアを閉めた母の後ろ姿を、目で追った。「ありがとう」。大勢の人が、行き交う駅の周辺だったからだろうか。母の後ろ姿は、少し小さく見えた。

 沢村

 心配かけたな、と。周りの人に支えられて、今の自分がある。勝って恩返しがしたいです。

 重圧のかかる首位攻防戦にも、恐れるものはなかった。5回表、ギアを上げた。150キロ台の直球とフォークで3者連続三振。そして、ほえた。2回には154キロの直球をはじき返し、2点目の適時打。代名詞の直球を軸に、今季初の2安打完封、10奪三振でねじ伏せた。過去にも、CS、日本シリーズなど、土壇場で強さを発揮してきた男はやっぱり強かった。

 7月6日、1軍復帰登板だった中日戦の直前だった。母から1通の手紙が届いた。「あなたの生き様を応援しています」。涙を流しながら読んだ手紙は、この日もバッグに入れて、球場に持ち込んだ。試合前には、母からプレゼントされた勝ち運のお守りをグッと握り締め、マウンドに上がった。「感謝の気持ちしかないです」。家族、チームメート、友人。周囲に支えられ、強くなった剛腕が、チームを救った。【久保賢吾】