<第一生命女子陸上部監督/山下佐知子(51)>

 20年大会が決まったことで、人を引きつけるランナー、スター選手を育て世に送り出したいという気持ちはさらに強くなりました。また、96年4月から第一生命女子陸上部の監督につき今年で20年目となり、私自身も指導者として価値観を変えるチャンスにしたいと思います。

 今の日本の長距離、マラソン界の状況はもったいないと思うんです。メジャーリーグで活躍する野球選手や、欧州リーグで結果を残すサッカー選手、テニスでもメジャー大会で日本選手が活躍すれば注目する。海外のメジャーな大会で活躍する日本人、格好いいなと。日本の長距離選手は、駅伝や国内選考会が中心になり、海外のメジャーな大会に挑戦する機会が限られる。世界選手権や五輪も、本番より国内選考会の方にエネルギーを使ってしまう。でも、実業団という恵まれた環境にいてそれはもったいない。世界のメジャーな大会で世界の強豪としのぎを削る、そこに本気で行こうとする選手を育てたいんです。

 そういうことを考え始めたのはロンドン五輪に教え子(尾崎好美)が出場した後です。なので今年より、駅伝の指導はコーチにある程度任せ、世界にチャレンジする選手に専念したいと、スタッフにも会社にもお願いしました。日本人の身体能力を考えると、アフリカ勢が台頭している舞台で、チーム運営や駅伝の片手間にやっていていいのか、との思いもありました。

 また、日本で市民ランナーの方が増えました。その憧れとなる選手がもっといてもいい。今年、米国で5キロレースとボルダーの10キロレースに参加しましたが、市民ランナーは先にスタートしてエリートの部は最後。先にゴールした市民ランナーがコースの両サイドやゴール付近にびっしりです。「見せる」ということを考えている。走る事も、見る事も両方楽しめるように工夫されている。エリートランナーはエンターテイナーでもあり、ある意味プロとして成り立つ。そんな環境、すてきです。

 日本の長距離界には少し閉塞(へいそく)感を感じます。これまでの価値観にとらわれず明るくチャレンジしたい。その取り組みが20年にもつながると信じています。でも、20年の結果を求めるだけのオール・オア・ナッシング的な方針や、特化してお金を使うのはもったいない。この環境を有意義に使い、失敗を恐れずいろいろな可能性を追求していきたいですね。

(2015年9月2日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。