カブスが108年ぶりに劇的なワールドシリーズ制覇を果たした翌日、興奮さめやらぬ球界に思わぬニュースが飛び込んできた。

 青木宣親外野手がマリナーズによってウエーバーにかけられ、アストロズが獲得に手を挙げたため移籍したというニュースだった。

 日本でも驚きだったのはもちろんだが、米国でもそれは同様だ。ほとんどの米メディアは、青木がオプションを行使されなかった時点でFAになると思い込んでいたからだ。大リーグ公式サイトのグレッグ・ジョーンズ記者は「(ジャイアンツとの)前の契約では契約終了後にFA権があったため、今回も同じだという誤解が広まっていた。しかしシアトルと昨オフに結んだ契約ではFAになる契約は含まれておらず、来季はアストロズが青木の保有権を持ち、年俸調停の対象者になった」と書いている。

 MLBの規定では、FA権を取得するには普通、メジャー登録日数が6年以上にならなければならないが、日本プロ野球から移籍してきた選手には、メジャーでの年数にかかわらず契約が終了すればFA権が与えられるという例外を適用することが可能になっている。メジャー全選手の契約内容を掲載している有名な契約情報サイトには、青木は確かに昨年1月にジャイアンツと結んだ契約には「契約終了後にFAとなる」という条項が記されているが、昨年12月にマリナーズと結んだ契約にはFAに関する条項の記述がない。

 ただし、こうした契約情報サイトも結局はメディアの報道をもとにして作られているため漏れも当然あるわけで、これによってすべてを判断することもできない。というわけで、青木に関して思い込みが広がっていたと思う。メジャーの契約は複雑で細かいため、長年取材していても分からないことや驚くことに出くわす。選手個々の契約書を見られるわけではないので、思い込みを極力避けるよう心掛けるしかない。

 思い返すと、日本プロ野球から移籍した選手のFAに関する例外的措置が最初に大きくクローズアップされたのは、02年に松井秀喜氏がヤンキースと契約する際に契約条項に盛り込まれたときだったと思う(それ以前には01年に新庄剛志氏がメッツに入団する際にFA条項を入れたそうだ。)当時の代理人アーン・テレム氏とMLB選手会がかなり尽力し、実現したと聞いている。今回の青木の契約にその条項がなかったのは、実に意外だった。