実はカブスとアスレチックスのキャンプ地は目と鼻の先にある。アリゾナ州メサに位置し、車でわずか10分足らずの距離。両球団の施設を何度か行き来していた2月中旬、キャンプ地で自主トレを続けるカブス鈴木誠也から伝言を預かった。

「晋太郎、『練習短っ』って言っていませんでしたか? もしそう思っているのなら、晋太郎に伝えてほしいんです」

届け先はア軍でひと足速くメジャー初年度のキャンプインを迎えた藤浪晋太郎。同学年の2人はもともと冗談を言い合える仲でもあり、米国2年目の“先輩”から“後輩”に届けたいリアルがあったようだ。

「日本と比べるとメジャーのキャンプは全体練習の時間が本当に短くて、1年前は空き時間にだいぶ不安になった。最初は『自分にはこんなにもルーティンがなかったんだ、日本では結局、練習をやらされていたんだ』とショックも受けたので…。こっちでは自分で考えて作ったルーティンを大切にした方がいい」

説得力が詰まった対処法を伝え聞くと、藤浪は「自分も今模索しているところです」とうなずいた。

もともと広島時代の鈴木は「ルーティンなんて必要ない」というスタンスだった。「あれをやっていない、これをやっていない、となるのが嫌だったので」。それが2時間あるかないかというメジャー流時短練習に足を踏み入れた途端、「余った時間に何をしたらいいのか分からなくなった」。藤浪には同じ戸惑いを抱えてほしくないのだろう。

「もしルーティンがあれば、全体練習が短くても『自分は今日もこれをやった』と不安を打ち消せる。だから今年の僕だったら、何時に起きて、この時間はトレーニング、バッティングではこのコースを何十球、こっちも何十球と決めて、足りなければ増やすようにしています。そうすることで今は『明日はこうしたい』と感じることはあっても、『何をすればいいか分からない』と不安になることはなくなりましたね」

20日(日本時間21日)にメジャー2年目のキャンプインを迎え、3月はWBCを戦う侍ジャパンの主砲。充実感漂う表情が今まで以上に頼もしく映る。【佐井陽介】