打倒DeNAのカギを握るのは-。阪神担当が独自の視点でつづる「猛虎リポート」。14日から始まるポストシーズンの勝機を探った。昨年はCSファイナルステージ、日本シリーズとも初戦で近本光司外野手(31)の電撃的な盗塁から試合が動いた。近本だけでなく、多彩な角度から相手をおびやかす阪神の「無形」の走塁力にスポットを当てた。【柏原誠】
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阪神勢は投打9部門でタイトルを獲得した。個のパワーは紛れもなくトップクラス。一方で、ライバル球団は数字に見えない部分でも“脅威”を感じていた。リーグ戦中盤、セ・リーグ球団の関係者と「走塁」の話になった時のこと。「阪神はやっぱりうまいですよ。いろいろな形で重圧をかけてきますから」。
具体例も挙がった。9月3日のヤクルト戦(神宮)。5回、佐藤の2ランで6-1。楽勝ムードが出始めた矢先、次打者の大山は中堅やや左に快打した。単打コースに見えたが、緩めることなく一塁を回っていた大山は中堅手・岩田の動きを見て二塁に進んだ。左投げの岩田が二塁に投げると体が逆回転になる。実際、ボールがシュートして二塁ベースからそれていくのを見て、瞬時に判断した。
体が大きく、俊足とはいえない大山だが、点差が開いた試合で当たり前のように隙を突いてみせる。こんな部分にもV2チームの底力が見てとれる。「当たり前」のレベルが高い。
筒井壮外野守備兼走塁チーフコーチ(51)は「課題はまだ多いのですが」と前置きしながらも、主力のレベルの高さは認める。
「一流どころやレギュラーの選手がそれをやっているチームは絶対強いと思っています。どこまでの選手が、どこまでやっているか。うちのレギュラー陣には備わっている。これが若手や他の選手全員行き届いていくのが理想です」
阪神では近年、走塁にかかわらず「オフ・ザ・ボール」の動きを大事にしている。記録に表れない動き。自己犠牲にも近い。守備ならバックアップ。献身的に汗をかいたり、鋭い読みで先回りしたり。ボールがない場所でどれだけチームのために動けるか。
盗塁王6度の近本が死球による骨折で長期離脱した。昨年は断トツの100個だったチーム盗塁数はリーグ3位の75に減った。走塁の判断ミスも随所に見られた。走塁面で完全無欠とは言えなかったが、それでも相手に重圧がかかっているのは、オフ・ザ・ボールの質が大いに関係している。
藤川監督はCS前の合同記者会見で、短期決戦のキーマンに近本の名を挙げた。1年前、近本が仕掛けた二つの盗塁の記憶は色あせない。CSファイナル初戦と日本シリーズの初戦で盗塁を成功させ、ともに決勝点を導いた。CSの三盗は3連勝での突破につながった。評論家からは絶賛の声が相次いだ。
藤川監督は近本が戦線復帰した7月11日、塁上で投手を惑わすような姿に「戻ってきて分かる素晴らしい選手」と絶賛した。足がある近本、中野の塁上での動きは相手が最も気にするところ。強力クリーンアップへの配球にも関係する。盗塁数では測れない無形の力。昨年の苦い記憶が残るDeNAバッテリーは、今年も塁上を意識せざるを得ないはずだ。
あまり知られていないが、森下の一塁での「偽走」技術はトップクラスとされる。勢いよく第2リードをとり、捕手の目をだます。実際に盗塁しなくても、相手に与える心理的な影響は大きい。故障や疲労を抱えながら森下は2年連続で全試合に出場。全力疾走を怠ったと批判する声もあったが走塁での貢献度は高かった。9月以降、本塁クロスプレーをアシストするため、無理に三塁まで走り、捕手から送球をもらったことが2度あった。藤川監督が「いいサポート」と、ほめ上げたプレーだった。
短期決戦では、真綿で首を締めるような作業も、乾坤一擲(けんこんいってき)の思い切った判断も必要。問われるのは真の走塁力。昨年に続いてDeNAの勢いを封じにかかる。
◆昨年の近本の2盗塁 DeNAとのCSファイナル初戦。0-0の6回に近本は内野安打と犠打で二塁へ。森下への初球、DeNAの左腕・東の背後で三盗を成功。森下の中前打で決勝点となる先制ホームを踏んだ。勢いに乗って3連勝でCS突破を決めた。
日本シリーズ初戦でも0-1の6回にソフトバンク有原から中前打で出塁。次打者・中野の初球に二盗を決めた。中野のバント安打と二盗で二、三塁となり森下の遊ゴロで近本が生還して同点。佐藤の勝ち越し打で一気に逆転。シリーズ唯一の勝利となった。



