日本では覚醒剤の所持、使用について「覚せい剤取締法」により10年以下の懲役が科せられる。また、営利目的の所持・譲渡・譲受は1年以上の有期懲役である。一方、昨年6月より、「刑の一部執行猶予制度」の施行がはじまった。これは懲役刑や禁錮刑を一定期間受刑させたのち、残りの刑期の執行を猶予し、早期から比較的長期の社会内処遇に切り替えて受刑者の社会復帰促進、および保護観察による再犯防止を目指す制度である。

 薬物事犯者では、従来よりも刑務所など施設内処遇で短期間で社会に戻る代わりに、一定期間、保護観察所の監督下で社会内処遇を受けることとなり、地域で薬物乱用防止プログラムの受講が義務付けられる。

 国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長によれば、世界保健機関(WHO)は薬物依存を非犯罪化し健康問題として扱うべきだと勧告している。

 「WHOの勧告の理由に、ポルトガルの政策があります。2001年、ポルトガルは少量の薬物の所持と自己使用について非犯罪化しました。非犯罪化とは、合法化することではありません。つまり使用して捕まえても刑務所には入れないのです。身柄は拘束しないが、ソーシャルワーカーがプログラムを受けるよう働き掛ける。薬物依存に問題がある人を雇用すると事業主に金を出す。手に職をもっている薬物依存者が起業するときには少額の融資を行った。こうした政策が10年後に成功し、薬物の過剰摂取で死亡する人が激減、HIV感染者も減った。治療につながる薬物依存者が激増し、薬物使用経験のある10代の若者も減ったのです」(松本氏)。

 いまや世界では厳しい刑罰が薬物の使用を抑制するという仮説は覆されている。むしろ厳罰化ほど社会問題化するともいわれる。スマホ、ネット、そして薬物依存症には、「治療」という選択肢があるという認識をもっと広げていくことが大切だ。(おわり)