本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

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「TOT(Trans-obturatorTape)手術」は、前回説明した「TVT手術」をさらに安全に改良したものです。「TVT手術」と同じくテープで尿道の後ろ側を支えますが、テープの通過経路が異なります。「TVT手術」では恥骨と膀胱(ぼうこう)の間を通りますが、「TOT手術」ではテープは閉鎖孔という骨盤の穴を抜けて、恥骨の前を通り内ももの付け根に出ます。

テープの通り道に太い血管や重要な臓器がないため「TVT手術」のように誤って器官を傷つける恐れがありません。つり上げすぎによる排尿困難も起こりにくいというメリットもあります。骨盤内の手術歴がある人や肥満の人も安心して受けられます。2012年9月から健康保険が適用されています。所要時間は30分ほど。傷も小さく、入院期間は数日です。治療成績も「TVT手術」同様良好で、危険な合併症はほとんどありません。しばらく、ももの付け根に痛みが残ることがありますが、まれです。

その他の「手術療法」に「バーチ法」があります。膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)をつり上げて位置を修正する手術法です。開腹手術か腹腔(ふくくう)鏡手術で行います。膀胱の両脇の膣壁(ちつへき)を持ち上げるようにして、骨盤底にある「クーパー靱帯(じんたい)」という組織に縫い付けて固定します。開腹した場合、傷が10センチ程度とかなり大きくなるので、現在は腹腔鏡ですることが多いです。

手術療法のほかに「刺激療法」があります。電気や磁気の刺激によって骨盤底を鍛え、尿道括約筋の収縮力を高める治療法です。肩や背中が凝ったとき電極を貼って低周波を流す治療が施されますが、それを応用して尿失禁にも使われるようになりました。「干渉低周波療法」と呼ばれ、下腹部と臀部(でんぶ)に4枚の電極を貼ります。すると干渉低周波が骨盤底筋群や排尿にかかわる神経を刺激して骨盤底の収縮を促すので、骨盤底体操をしたのと同じような効果があらわれるのです。

腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁に対し、それぞれ適切な周波数を設定した場合、1カ月の治療で約80%の改善効果があり、ほとんど副作用はなかったと報告されています。治療時間は20分ほどで、週1回程度数回行います。健康保険も適用されます。同様のものに「磁気刺激療法」があります。着衣のままいすに座って行えるメリットがあります。女性の過活動膀胱(切迫性尿失禁)に適用されます。