■ウイルスの善と悪

ウイルスは人間にとって怖い存在です。前回お話しした天然痘は、16世紀、中南米で広く栄えていたインカ帝国に欧米から入り込み、崩壊させました。

1918年(大7)、第1次世界大戦が行われる中、スペイン風邪が米国から世界へ広まりました。当時の新型インフルエンザウイルスです。第1次世界大戦の戦死者を上回る5000万人が死亡したとも言われています。

鳥類や哺乳類が保有しているウイルスは170万種。そのうち約82万種が人間に感染する可能性があると言われています。

■ウイルスとの共生

ウイルスは人間に害悪を与えるだけではありません。1億5000万年前、哺乳類に感染したウイルスのゲノムが胎盤を作ったと言われています。卵から、新しい出産の形へと進化したのです。

脳の記憶にも関係しています。ウイルスのゲノムが、脳の中でニューロンからニューロンへと情報を運ぶ仕事をしています。人間の体には、ウイルス由来の遺伝子があるのです。

人類とウイルスは長く共生してきました。しかし自然開拓や野生動物取引など人間の行き過ぎた行動が、パンデミックを引き起こしてきました。ほどほどに生きることが大切です。

人間が唯一完全制圧したウイルスは天然痘。その大きな力となったのは、ワクチンです。日本も30年程前まではワクチン先進国と言われていました。国民を守るためにもう一度、国産ワクチンの製造に力を入れる必要があるように思います。

◆テレビ、ラジオでもおなじみの医師で作家の鎌田實氏が、長引く新型コロナウイルスの感染症との付き合いで、私たちにできること、いかに困難と向き合っていくか、じっくりとお伝えしていきます。