急患で来院される方の多くは歯が「取れた」「欠けた」という異変を抱えています。先日拝見した方は「金属が外れた」という症状だったのですが、口の中を診てみると反対側の歯がありません。数年前に抜歯後、特に不自由を感じなかったので放置していたそうです。今回外れた原因がそこにあるのでは、とお伝えしたら目を丸くなさっていました。

人間の体はよくできていて、何かが失われても他の部分で大抵のことがカバーできるようになっています。これは歯も同じです。数本抜けたとしても他の歯で咀嚼(そしゃく)ができますし、いつしかそれが当たり前になっていきます。最初はとても違和感があったのに、ほんの数週間で慣れてしまう。感覚とは本当に不思議です。それに対して見た目はどうかというと、しっかり変化する現実があります。

片方の歯だけでかむ癖があると、その部分の筋肉が発達し肥大します。クチャクチャ音を立てないとかめなくなる人もいます。顎は左右で“つがい”の動きをしますから、バランスが崩れ顔がゆがみます。歯が無いところは落ちくぼみ、老けた印象になります。ところが多くの患者さんは、こうした変化を起こした理由が歯にあることに気づきません。高価なクリームを塗った、あるいは美容外科で施術を受けたという女性患者さんには沢山お会いしました。男性患者さんはそもそも、鏡を見る習慣が乏しいこともあり無頓着です。

残った歯を過重労働させていると、口の中で雪崩が起きます。残っている歯で何とか食べようとするので、どんどんすり減るからです。慣れによって、かみ合わせの高さは刻々と変化します。大幅に低くなったかみ合わせを再構築するには、ある程度の時間とお金を覚悟しなければなりません。見た目にも体にも悪影響が出る前に「何かで補う」。これが得策です。