信じられないような敗戦を目にしながら「巨人の星」の名場面を思い出していたのである。若い人は知らないかもしれないし、正直、こちらも明確には覚えていないのだが、こういうシーンだったと記憶する。

息子・星飛雄馬にスパルタ指導を続ける父親・一徹はともに大みそか、初詣に出かける。寺で鳴るのは除夜の鐘だ。除夜の鐘は人間が持つ108の煩悩を振り払うために鳴らす。ここで一徹は硬式球の縫い目も108であると飛雄馬に教える。「迷い、悩みを断ち切って白球を投げこめ」。そう教えるシーンである。

敗戦投手となった高橋遥人は懸命に投げ込んだ。その球数は「108」。104球目を牧秀悟に左翼席へ持っていかれた。「普通にボクのせいで負けてる」。高橋はそう話したが彼を責める人はいないだろう。

すごみを見せたのは両軍無得点で迎えた7回表か。先頭・宮崎敏郎の右飛をこの回から右翼に回った高寺望夢が落球してしまう。無死二塁のピンチ。しかし高橋はここで後続を断つ。味方のミスを救う好投を見せたのだ。だが最後まで打線の援護はなかった。

「本当に今季を表すような投球だったと思います。明日(16日)以降、頑張って、また高橋が登板できるようにしなきゃいけないですね」。指揮官・藤川球児も高橋に最大級の賛辞を送った。本当にそう思う。

連敗を喫したが、まだ1勝2敗ではある。しかし敗退ムードが色濃く漂っているのは間違いない。欠場した佐藤輝明に続き、森下翔太も右足、どうやら右ハムストリングスの不調のようで試合を退いた。

この2人がいなければ、まったく別のチームになってしまうのは否定できない。まさに緊急事態としか言いようのない状況である。せっかくのリーグ連覇も日本シリーズに進めずに終わってしまうのか。

それでも、このままズルズルと負けていいはずはない。「日々、試されて勝負して、選手の血となり肉となりというところ。いつだって、どこのチームでもあると思う」。この状況に球児はそう腹をくくった。

土壇場9回に見せた植田海の三盗にはしびれた。まだ終わったわけではない。前日も書いたけれど、佐藤も森下も、いつかはいなくなる。それでも阪神はなんとかする、しなければならないのだ。そういう部分を、いま、見せるときなのかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)