ボクシングの元世界2階級制覇王者で、4月に現役引退を発表した粟生隆寛さん(36)が、10月2日の東京・後楽園ホールでの興行で、セコンド“デビュー”を果たす。28日は都内の帝拳ジムで、担当する4戦全勝のホープ岩田翔吉(24)を指導。「自分のデビュー戦より緊張するが、素晴らしいものを持った選手。熱くなりすぎず、勝たせてあげたい」と意気込んだ。

現役に別れを告げてから約半年。華麗なカウンターで一時代を築いたサウスポーが、選手のバンテージを巻き、モップで丁寧に床を拭く。「たまにやりたくなる」とリングへの愛情は残しつつ、「人の運命を握っている仕事」とトレーナー業への思いを語る。

高校時代に田中恒成、井上拓という世界王者から勝利した岩田に加え、アマチュアの全日本選手権で優勝経験のある藤田健児ら、才能豊かな選手のミットを受ける。指導のモットーは「対応力」。「セオリーは大事だが、無視しないといけない局面があるのがボクシング。ベースを大事にしつつ、教えたいのは、その次。駆け引きや、相手の裏をかく技術を伝えたい」と力を込めた。

選手との何げないコミュニケーションを意識し、「押しつけない」トレーナーを目指す。理想の選手を聞くと「長谷川(穂積)さんの爆発力と、(井上)尚弥の一発に、自分のディフェンス技術を足した感じですかね」とジョーク交じりに言った。「天才」と称された36歳が、裏方として1歩を踏み出す。【奥山将志】

◆粟生隆寛(あおう・たかひろ)1984年(昭59)4月6日、千葉県市原市生まれ。習志野高では史上初の高校6冠。09年3月にWBCフェザー級、10年11月に同スーパーフェザー級王座を獲得し、2階級制覇。168・5センチ。プロ戦績は28勝(12KO)3敗1分け1無効試合。