政府、東京都、大会組織委員会は昨年12月、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックにおける新型コロナウイルス対策の中間整理をまとめた。「アスリートとその関係者」「大会関係者」「観客」の各立場による場面ごとの具体的な感染対策だ。首都圏で緊急事態宣言が出る中、延期しなければ昨夏、東京五輪の会場担当医師を務めるはずだった循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師(39)に中間整理の対策は十分かどうかを聞いた。【取材・構成=三須一紀】

後藤氏が勤務する愛知医科大病院は満床に近いほどコロナ患者で逼迫(ひっぱく)している。バスケットボールB1名古屋ダイヤモンドドルフィンズのコートドクターも務めスポーツに精通し、五輪開催に賛同する立場だが、臨床、現場を知る現役医師として五輪コロナ対策に厳しい意見を述べた。

循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師
循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師

Q1 政府は外国人観客の入国を前向きに検討している

「かなりリスクが高い」

Q2 事実上、観戦が困難なことから十分な感染対策を講じた上で「14日間隔離・公共交通機関不使用」の免除を検討している

「最低でも10日間は隔離期間がないと厳しい。PCR検査で偽陰性が出る可能性がある。感染していても10日目以降は感染を広めることはないセーフティーゾーンになる」

Q3 観客制限、外国人観客の入国可否を決めるのは3、4月としているが、ここにきて緊急事態宣言が1都3県に発出された

「五輪コロナ対策は玉虫色だ。政府はあらゆる可能性を残したかったのだろう。だがコロナはことごとく我々の予測を裏切っている。第4波が来ないとは言い切れない中、本当に五輪開催を実現したければ、第4波が来ても開催できるように考えておくべきだ」

Q4 政府は見通しが甘いか

「経済と両立の観点から強気だった政府が1都3県の知事要請ぐらいのプッシュであっさり方針が変わった。五輪に関しても今、政府は強気だが、今回の緊急事態宣言のように本番直前でさまざまな計画を変更しそうな気がする」

Q5 外国人観客の入国は諦めるべきか

「感染が拡大している国もある。PCR検査は3割が陽性者を取り逃がす。そのケースに当てはまった外国人が入国すればリスクは高い。五輪で感染が広がれば『何が平和の祭典だ』と言われる。そこまで予測した上で、計画を進めるべきだ。現状、外国人観客の入国はあり得ない」

Q6 国内の観客は

「この程度でパニックを起こしている首都圏の首長が、観客を入れて五輪を開催すると自信を持って言えるだろうか。2月にワクチンを打ち始めるとしても、副作用などが起きて反ワクチン報道は必ず出る。そこからわずか半年で、その流れを変え、来場者にワクチン接種を義務化するぐらいのことができるならフルスタジアムを検討しても良いが、それは現実的ではない。ワクチンなしで満席にしたら感染は広まる」

Q7 無観客にすべきか

「アスリートファーストの観点で五輪を開催することが第1の目的なのでは? 競技だけなら開催できるし、開催すべきだ。もちろん観客がいた方が良いというのは分かる。ただ今の玉虫色のコロナ対策では、4月に感染爆発が起きたら、世論を抑えられず大会は中止になってしまう。それを防ぐには現時点であらかじめ開催パターンを決め、国民に示しておくべきだ」

Q8 開催パターンとは

「感染状況に応じて無観客、観客25%、同50%、フルスタジアムの4パターンを決めておく。何も示さず3、4月に決めると言っていて春に第4波が来たらどうにもならない。『第4波が来ないといいな』という希望的な計画ではだめだ」

Q9 ワクチン以外に観客を入れる方法はあるか

「持病がある方や喫煙者、高齢者に入場制限をかけるなど対策を徹底する手はあるかもしれない」

Q10 選手村の検査体制としてアスリートらにPCR検査、抗原定量検査を4、5日に1回行うとしている

「選手村と競技会場、練習会場しか行き来できない行動制限(バブル)をかけた上でその検査回数は良いと思う。抗原検査はある程度のウイルスを持っていないと検出しない。2つの検査を用いるのは体操の内村航平選手のような偽陽性を防ぐためのものでしょう」

Q11 バブルから抜け出した選手に罰則も検討している

「それは必要だ」

Q12 陽性の選手が大会に参加できないのは仕方ないが、濃厚接触者になった場合、出場可否判断が難しい。政府は今後検討するとしている

「バドミントンの桃田賢斗選手が成田空港で受けたPCR検査で陽性となった。その他は全て陰性だったが全員が海外遠征を取りやめた。残念だが感染が拡大する恐れがある以上、五輪でも同様に、濃厚接触者に認定されたら出場は不可とするしかないのでは」

Q13 聖火リレーでは組織委が感染予防策を策定し、各都道府県に配布する

「リレーを実施するなら全国共通の正確な対策が必要だ。各自治体バラバラでは意味がない」

Q14 密助長の理由から著名人ランナーの見直しを政府が組織委に求めている

「何度も言うが目的は五輪本番の開催だ。その実現のために余計なものはみそぎをすべきだ」

Q15 政府は選手村を出た選手に、全国510の自治体が登録しているホストタウンで交流することを推奨している

「見立てが甘い。国民全員が五輪を受け入れるとは思えない。競技だけ運用できる大会にしないと今回の五輪は開催できなくなる可能性が高いのではないか」

◆アスリートとその関係者(審判、指導者、トレーナー、練習パートナー、ドクター、パラアスリート介助者ら)の主なコロナ対策

【出入国】

・出国前72時間以内に検査、陰性証明の取得

・入国前14日間の健康モニタリングの提出

・到着空港で検査

【入国後】

・アプリでの健康状態の報告、接触確認

・用務先(競技会場、練習場等)と移動手段等を記載した活動計画書を事前に提出

・行動計画を順守する旨の誓約書を提出

【移動】

・公共交通機関を使わず専用車で移動が原則(やむを得ない場合は新幹線、飛行機の利用を認める)

【選手村】

・競技5日前から入村可、競技後2日以内に退村義務

・総合診療所に発熱外来を設置

・選手村がある地域で行政上の保健衛生機能を強化

・食堂の座席数削減、利用時間分散、メニューの事前案内、アクリル板の設置

【競技会場】

・競技別対策は6月までに決定

・エントランスで体温チェック

・ロッカールーム、アスリートラウンジでの円陣やゲキを飛ばすこと、歌うことの禁止

・アスリートの観客席観戦の見直し

・共用をできるだけ避ける(サッカー等の飲用水ボトル、体操等の滑り止めの粉など)

・球技のボール消毒

・バスケットボール等で選手ベンチと審判席の距離を離し、アクリル板などを設置

【検査体制】

・選手村、事前キャンプ地、ホストタウンでは4、5日に1回、PCR検査、抗原定量検査を実施

・陽性者は大会出場不可

・無症状で陽性の場合、再検査で陰性なら出場可(偽陽性の防止)

・濃厚接触者の出場可否は今後検討

【その他の感染防止策】

・アスリートと接触する人は原則2メートルの距離を確保

・マスク常時着用

・30分に1回以上換気

◆大会関係者(主催者等、メディア、大会スタッフ、都市ボランティア)の主なコロナ対策

【出入国】

・到着空港検査など今後検討(主催者等、メディア、大会スタッフ)

・14日間隔離

・公共交通機関不使用の措置は今後検討(主催者等、メディア、大会スタッフ)

【入国後】

・用務先を含めた行動ルールを定める(主催者等、メディア、大会スタッフ)

【移動】

・入国者は今後検討。国内は公共交通機関と専用車両の併用(主催者等、メディア、大会スタッフ)

【競技会場とその周辺】

・取材時の距離確保と仕切りなどを用いてメディアとの濃厚接触を避ける。取材エリアの予約制、オンライン取材の検討(メディア)

・握手、ハイタッチの自粛(大会スタッフ、都市ボランティア)

【検査体制】

・今後検討(全て)

【宿泊】

・組織委手配のホテルもあるが独自手配も。一般客も宿泊するホテルでは対策をホテルに要請(主催者等、メディア、大会スタッフ)

・独自に確保する人に向け感染防止策に取り組む宿泊施設の情報提供(都市ボランティア)

◆観客の主なコロナ対策

【数の上限規制】

・今春(3~5月)に決定

【出入国】

・入国前検査・健康管理、入国時検査・誓約書等確認、入国後の行動管理、隔離などの措置やアプリ導入を今後検討

【入国後】

・観戦が事実上困難となるため14日間隔離の免除を検討

・各国の感染状況の濃淡で国と地域によっては14日間隔離を求める可能性もある

【移動】

・観戦が事実上困難となるため公共交通機関不使用の免除を検討

【競技会場とその周辺】

・観客向けガイドラインの策定、周知

・体調が悪い場合は入場を拒否する

・入退場口やトイレなど混雑状況を検知するシステムの導入検討

・大声を控える