前週のWGCの優勝で期待値がこれまでになく上昇した、松山英樹(25=LEXUS)の海外メジャー初制覇だったが、今回の全米プロ選手権もあと一息手が届かなかった。


全米プロ最終日16番でパーパットを外しパターを投げる松山(撮影・菅敏)
全米プロ最終日16番でパーパットを外しパターを投げる松山(撮影・菅敏)

 「何をしたら勝てるか分からない」と語り、ホールアウト後に珍しく涙を流した松山。しかし日ごろの取り組みは、確実にメジャー初制覇への糧となっている。

 海外メジャーで最終日最終組の経験はないが、直近の全米オープンをはじめ、非常に優勝に近い位置で最終日のプレーをしている。最終日にメジャー制覇に近い位置でプレーすることで、独特のプレッシャーを感じる経験を得られている。


●着実に経験を糧にしている松山


 最終日、1番から18番まで松山の組について回ったが、3日目までとはギャラリーの数も雰囲気も全く異なるものだった。ギャラリーやメディアの1打1打への「のめりこみ具合」が違う。そんなギャラリーが醸し出す雰囲気はメジャーでしか味わうことのできない独特のものだ。同伴者で優勝した米国人ジャスティン・トーマスに熱い声援が向けられたが、プレッシャーに押しつぶされてショットを乱すというシーンは見られなかった。流れの悪かった11番以降でも、感情をあらわにして取り乱すこともなく、精神的にもかなりタフなプレーヤーに昇華している事は間違いない。

 最終日に流れをつかみきれない原因となった3~5フィート(約1~1・5メートル)のパッティングは、元々ランクがPGAツアー選手200人中150位程度とウイークポイントとなっている。この距離のパッティングの課題を改善するためにはストローク中の動作を向上させる事が必要になる。

 松山のラウンド後の練習量は、PGAツアーの中で最も多い。その中でも練習グリーン上でストロークの動きをチェックするのに多くの時間を費やしている。練習過多には気を付けなくてはいけないが、この日々の取り組みがパッティングストロークの向上に着実につながっていくはずだ。

 度重なる大舞台での経験と、日々の鍛錬によってメジャー初制覇は近づいている。


●最終組で経験を得たキスナー


 今回の全米プロで、松山と同じように練習グリーンで入念にパッティングのメカニック部分をチェックしていた選手がいた。3日目まで首位をキープしていたケビン・キスナーだ。キスナーは練習グリーンでコーチのジョン・テリーとともに、入念にパッティングのストロークの確認をしていた。

 アドレス時、両腿にクラブシャフトを当て、前傾角度が毎回同じになるようチェックを繰り返していた。

 テリーはキスナーが首位で迎えた3日目のスタート前、「ショットもパットもいいから、勝つのはケビンだ」と冗談を交えて語っていた。


ケビン・キスナー(右)とコーチのジョン・テリー氏
ケビン・キスナー(右)とコーチのジョン・テリー氏

 そんな2人も、最終日の朝はピリピリムードで、明らかにプレッシャーを感じているようだった。今シーズン1勝を挙げているものの、それがPGAツアー2勝目だったキスナー。最終日は、今までに経験したことのないプレッシャーだったはずだ。3日目までのパフォーマンスを発揮する事ができず、7位タイに終わった。

 しかしメジャーの最終日最終組で戦ったという経験は、必ず次の機会に活きてくるはずだ。


●親子鷹が注目されたが


 優勝したジャスティン・トーマスは父親のマイク・トーマスをコーチにしている。日本ではジュニア時代の手ほどきから、プロになってからも親がスイングのアドバイスを送ることも多いが、PGAツアーに参戦する選手でそういった関係はほとんどみられない。ジュニア時代にアドバイスを送っていたとしても、本格的にスイングを構築していく10代の中盤から後半にかけて、ティーチングの専門家であるコーチにティーチングを依頼をすることが多い。

 ジャスティン・トーマスの場合は父親がその専門家だった。祖父の代から3代続くプロゴルファー一家なのだ。


ジャスティン・トーマス(左)とコーチのマット・キリーン氏(右)
ジャスティン・トーマス(左)とコーチのマット・キリーン氏(右)

 一方でパッティングに関してはマット・キリーンというコーチをつけている。キリーンは4年程前からトーマスの指導を始めたという。

 「主に注力しているのはボールの転がりと、ストロークを一定にするという点だ」

 転がりをよくするためには、ボールに順回転をかける必要がある。キリーンはハンドレート気味だったアドレスの手元の位置を少しハンドファーストにして、理想的なブロー角とインパクトのロフト角になるように指導したという。

 「プレッシャーのかかる場面でもっともズレが生じやすいのが、ストロークのテンポだ。しかしそれを想定して普段からトレーニングをしていれば、ミスが生じにくくなる」

 シーズン当初に今年の目標はメジャーを取ることと公言していたトーマス。日ごろからメジャーの舞台を想定した準備が実を結んだ、全米プロの優勝だった。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)