「五輪を楽しむためのキーワード」を特集する第5回はバスケットボール編。1チーム5人の選手がドリブルやパスを駆使して得点を重ねていく中、各ポジションの役割に変化が起きつつある。NBAコメンテーターの塚本清彦氏(60)に、“ポジションレス”となっている最新バスケのキーワードを解説してもらった。【取材・構成=奥岡幹浩】

NBAコメンテーターの塚本清彦氏
NBAコメンテーターの塚本清彦氏

豪快なダンクや華麗なドリブル-。一見すると派手な個人技を奔放に繰り出しているように見えても、多くは緻密な戦術や戦略の上に成り立っている。その傾向はレベルが上がるにつれて色濃くなり、NBAでは特に、徹底したスカウティング(偵察)やデータ解析を基に、個々の役割が割り当てられている。

NBA解説などでもおなじみの塚本さんは、バスケットの各ポジションの役割を「ウォー・ゲーム(戦略シミュレーションゲーム)」に例えて説明する。

バスケ従来ポジション
バスケ従来ポジション

塚本 ゴールに一番近いところに陣取り、身体をぶつけ合うセンター(C=5番)は「陸軍」に例えられるでしょう。ゴール下付近でのパワフルなプレーをはじめ、オールラウンドな働きを見せるパワーフォワード(PF=4番)は「海軍兼陸軍」。そしてコートを縦横無尽に駆け回るスモールフォワード(SF=3番)は、神出鬼没の潜水艦を操る「海軍」で、空中に次々とシュートを放つシューティングガード(SG=2番)は「空軍」。そしてゲームをコントロールするポイントガード(PG=1番)は、まさに「司令官」と表現できます。

とはいえ、バスケが進化を続ける中で、従来のポジションの概念では収まらないケースも増えてきた。

塚本 オリンピックなどの国際大会が増え、ヨーロッパの各国が米国を破るべく総合力の高い選手を育成してきた結果、ポジションレスの流れが加速しています。例えばセルビア出身のヨキッチ(26=ナゲッツ)は2メートル11センチの大型選手だけれど、ボールハンドリングやパスのスキルも高く、プレー中の視野も広い。ラトビア出身のポルジンギス(25=マーベリックス)も、身長2メートル21センチながら、ミドルシュートや3点シュートをどんどん決めてきます。

ポジションレスというキーワードに派生して出てきたのがプレーメーカー、ウイング、ビッグという3つの役割という。

塚本 プレーメーカーは文字通り試合をつくることが役割。司令塔タイプの選手が担うことが多いですが、ジョージ(31=クリッパーズ)のようにポイントガードではない選手も含まれます。ウイングはコートを走り回って得点に絡むことが求められます。運動能力の高い選手が務め、八村塁(23=ウィザーズ)や渡辺雄太(26=ラプターズ)はここに該当。そしてビッグは、自らが壁となって相手の守備を阻むスクリーンアシストで、味方の得点シーンを支えます。

こうした変化は、国内のBリーグでも見て取れる。ピックアンドロール(別項参照)を多用するB1千葉では、国内屈指のプレーメーカーである富樫勇樹(27)を生かすべく、ビッグとしてサイズ(26)が存在感を誇示している。

19年10月、マーベリックスとのNBAデビュー戦で3ポイントシュートを決めるウィザーズ八村
19年10月、マーベリックスとのNBAデビュー戦で3ポイントシュートを決めるウィザーズ八村

<積極的に専門用語>

「リバウンド」や「アシスト」など基本的な用語から、「トランジション(攻守の切り替え)」や「アウトナンバー(数的優位)」といった専門用語が存在。塚本さんは中継において、こうした横文字をあえて積極的に口にしているという。「今は携帯片手にすぐ調べられる時代。新しい用語に触れ、それを知ることで、バスケの面白さがより広がると思っています」。

◆スクリーン ボールを所持していない選手が「壁(スクリーン)」となって相手選手の守備を邪魔することで、味方の攻撃選手をサポート。ボールを持つ選手を助ける動きは「ピック」と呼ばれる。「ピックアンドロール」とはピックを掛けた選手が、直後にゴールポスト方向へと巻き込むような動き(ロール)をし、スペースでパスを受けようとすること。

◆塚本清彦(つかもと・きよひこ)1961年(昭36)2月26日生まれ。兵庫県出身。育英高から明大卒業後、日本鋼管に入社。ポジションは主にポイントガードを務め、日本リーグ優勝2度、93-94シーズンにベスト5。96年引退。明大、法大の監督を経て、現在はテレビやインターネット放送でNBAやBリーグの解説を行う。

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)