「世界的スポーツイベント」などとうたい、大手求人サイトがアルバイトを募集している。いずれも「五輪」と明記しておらず、求人を出している会社の口は重いが、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのアルバイトスタッフの募集のようだ。東京五輪・パラリンピック組織委員会は取材にアルバイトの募集は認めたが「ボランティアとはスタッフとしての性質が大きく異なる」としてボランティアの代替ではないとしている。

「世界的スポーツイベント」で「ひと夏の思い出」???
「世界的スポーツイベント」で「ひと夏の思い出」???

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■時給2000円!?

「夏限定のレアバイト」「一生に一度の経験」「ひと夏の思い出」。このような広告がネットの求人サイトにあふれている。募集している会社はさまざまだが、共通してイベント名が記されていない。いずれも期間は7~9月。会場誘導や飲食スタッフ、清掃スタッフなど業種は幅広いが、仕事内容からみて、五輪やパラリンピック関連とみられる。中には時給2000円のアルバイトもある。

求人を出している会社は「ご想像の通りです」と小声でばつが悪そうに話した。「商標法があり、オリンピックの名称を使用することができなくて募集要項の説明が苦しい」と明かしたが、中には勤務地を「オリンピックスタジアム」と堂々と明記している求人広告もある。

17年9月、東京都が新たに製作した3種類のボランティア用ユニホーム
17年9月、東京都が新たに製作した3種類のボランティア用ユニホーム

■18年ボランティア応募20万人

東京五輪・パラリンピック組織委員会は、アルバイトの募集について「大会の安定的な運営、日本代表選手団の国際競技力向上にご協力いただいております」と、業務の委託を認めている。一方で、組織委は18年9月~12月の約3カ月で、大会ボランティア8万人を募集していた。約20万人の応募があり、19年1月~7月に説明会や面談を行った。不採用となった人も多い。また、組織委は21年2月に約1000人のボランティアが辞退したと公表している。森喜朗前会長の女性蔑視発言の影響などとみられるが、明確な理由と同期間以外の辞退者数を明らかにしていない。

大会ボランティアで想定していた業務をアルバイトに充てているのか、組織委に聞いた。「辞退された方はいるものの、多くの方が引き続き活動いただけます。そのようなことはございません」と否定した。辞退者分の人数の補充は行っていないとし「今後、大会運営計画の精査やシフト調整等で対応していきます」と考えを示した。

17年9月、ユニホームを着て、ポーズを決める小池都知事
17年9月、ユニホームを着て、ポーズを決める小池都知事

■職務に責任の有無

大会ボランティアとアルバイトの違いについては「活動期間や役割、職務(活動)に対する責任の有無などスタッフとしての性質が大きく異なります」と説明。ボランティアはあくまで自由意思での参加で、アルバイトは、業務を履行する責任があるという。ただ、例えば、ボランティアの募集に会場内での大会関係者の案内という業務がある一方、バイトの募集にも大会関係者・関係車両を所定の場所に誘導する業務がある。似た業務内容でも賃金が発生する、しないの差は生まれそうだ。【沢田直人】

19年2月、東京・有楽町の東京五輪ボランティア説明会・面談会場の受付に行列をつくる大会ボランティアの応募者たち
19年2月、東京・有楽町の東京五輪ボランティア説明会・面談会場の受付に行列をつくる大会ボランティアの応募者たち

<海外客来ず成田空港エリア業務も減少>

競技会場周辺の主要駅や空港などで、交通アクセス案内などを担う都市ボランティアのうち、千葉県では2826人が採用されていたが、辞退が相次ぎ既に約35%減の1824人となっている。

成田空港エリアの都市ボランティアは、空港内の案内を行う予定だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、辞退などが相次いで679人いたボランティアが約45%減の373人に減った。他にも1年の延期で、大学生などが就職して環境が変化してしまったケースや、交流を期待していた海外からの観客が来なくなったために辞退するケースなどがあった。

ボランティアの人数が減ってしまったことについて、県の担当者は「ボランティアのひと班あたりの人数を5人から2~3人に減らして対応していきます」と話した。追加の募集は行わない。海外からの観客が来ないことで業務量も同様に減少しているという。今後は成田空港で、ボランティアの実地研修を予定している。

<ボランティアの看護師は当初の3割に>

東京五輪サッカー競技会場の茨城県鹿嶋市のカシマスタジアムや練習会場で、医療ボランティアをする予定だった看護師が当初の約3割にまで減少している。

茨城県看護協会によると、組織委が18年夏に、日本看護協会を通じて県協会に医療ボランティアの協力を要請。看護師41人が応じていた。しかし、今年4月20日に日本看護協会から新たに10人以上の協力を求める要請があった。県協会が組織委に直接理由を尋ねると、了承を得ていた41人の看護師が13人にまで減っていたと説明を受けた。県協会はボランティアに参加予定だった看護師がだれかを把握しておらず、辞退の理由も不明だという。

県協会は、県内の新型コロナ対応の状況を受け、これ以上の看護師のボランティア協力について、日本看護協会に「協力は難しい」との趣旨の回答を文書で送った。

19年2月、東京・有楽町の東京五輪ボランティア説明会・面談会場で説明会に参加する大会ボランティアの応募者たち
19年2月、東京・有楽町の東京五輪ボランティア説明会・面談会場で説明会に参加する大会ボランティアの応募者たち

◆東京五輪・パラリンピックのボランティア 大会ボランティアと都市ボランティアがある。組織委がとりまとめる「大会ボランティア」は、観客サービスや競技運営サポートなどを行う。競技会場や選手村などが活動場所で、規模は約8万人。東京都が募集した「都市ボランティア」は、旅行者に対する交通案内、競技会場の最寄り駅周辺で案内などを行う。運営は都以外に、競技会場を有する自治体も行う。規模は約3万人。