
【渡辺倫果〈下〉】中庭HCとの出会い、高橋大輔との縁を経てシンデレラストーリーへ
日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の思いに迫る「氷現者」をお届けしています。
シリーズ第3弾は渡辺倫果(20=法大)。10月のグランプリ(GP)シリーズ第2戦スケートカナダで初出場優勝し、第5戦NHK杯も5位。最終戦フィンランド大会の結果を受け、初のファイナル(8~11日、イタリア・トリノ)進出を決めた新ヒロイン候補の物語です。
最終回の(下)編はカナダ留学、国内復帰、中庭健介ヘッドコーチ(41)との絆、アイスダンス男子の高橋大輔(36)から受けた今季ショートプログラム(SP)曲「ロクサーヌのタンゴ」の特別指導、そして夢の26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪(オリンピック)での金メダルへ。
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中2の冬、カナダ留学即断「考えすぎるの好きじゃない」
渡辺が再び決断を迫られていた。中学2年の冬。師事していた関徳武コーチが東京・東伏見(ダイドードリンコ)アイスアリーナを離れ、カナダへ移ることになった。
「(左膝の手術後、強行出場した)東京ブロックに出て、やっぱりちょっと休むことになって。練習再開して、またダブルアクセル(2回転半ジャンプ)は跳べるかな、くらいまで戻ったころでしたね」
闇から、まだ薄暗いところまで出てきたころ。氷上の成績が飛び抜けて良かったわけではない。しかし「カナダ」の響きに、好奇心に、体を突き動かされた。
「大会とかは全然だったんですけど『海外でスケートしたい』『いつか留学してみたい』という夢があったので。ちょうど結果も出ていなかったし、逆に行こうかなって」
中学2年の3学期。「お試しで2週間」カナダ・バンクーバーへ体験留学した時には、もう心は決まっていた。
「『行きまーす』って(笑い)。まあ私の人生、常にそういうマインドで」
彼女にとって決断は「迫られた」という類いの仰々しいものではなかった。
「関先生が、母親に『カナダへ行くことにになりました』と事前に伝えた時、母は『本人は間髪入れずに“行く!”って言うと思いますよ』と話していたらしいです。で実際、私も先生から言われた瞬間『行きます!』って即答(笑い)。『お母さんの言う通りだったわ』って言われました。親も『行ってこい!』みたいな感じでしたし、人生、常に気の向くままに。いつも『AとBを選んで』って言われたら即決です。良さそうな方を直感で。その方が楽じゃないですか。楽しいじゃないですか。考えすぎるの、好きじゃないんですよね」
習うより慣れろ「英語は一切していなかった」
語学習得など「決断」の二の次だった。
「良くも悪くも直感で動いている人間なので、英語の勉強は一切していなかったんですよ。全く話せないどころか『How are you?』ですら、向こうでは発音が良すぎて聴き取れなかったくらい。でも耳で覚えて、まねして、の繰り返しで何とかなるんです。ホームステイで3年半お世話になったんですけど、英語も中国語も、聴き取りだけはできるようになるんですよね」
14歳にして文化の違いを知る機会にもなった。
「本当に行って良かったです。固定概念、日本では当たり前と思っていたことが、向こうでは当たり前ではないので。バンクーバーにはカナダはもちろん、アメリカ、フランス、中国、台湾、韓国と、いろいろな国・地域の国の方がいて、文化があったので。一番の衝撃は、ラーメンを食べる時に麺をすすっちゃいけないっていうこと(笑い)。あとは友達の誕生日会とかパーティーですかね。日本だったら10分とか15分前には会場に着いて待つじゃないですか。なので15分前を目指して行ったんです、遅れたら怖いなって。そうしたら、めっちゃ怒られました。『準備があるんだから! 時間通り…いや、開始時間より遅れて来てよ』って。『え、ごめんなさい』って思わず謝っちゃいましたね(笑い)」
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長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメリカンフットボールの甲子園ボウル出場。
2004年入社。文化社会部から東北総局へ赴任し、花巻東高の大谷翔平投手や甲子園3季連続準優勝の光星学院など取材。整理部をへて13年11月からスポーツ部。
サッカー班で仙台、鹿島、東京、浦和や16年リオデジャネイロ五輪、18年W杯ロシア大会の日本代表を担当。
20年1月から五輪班。夏は東京2020大会組織委員会とフェンシング、冬は羽生結弦選手ら北京五輪のフィギュアスケートを取材。
22年4月から悲願の柔道、アメフト担当も。
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