【ミラノ発〈8〉】泣いて部屋を出たトロントの夜「優真は一言も…」鍵山父子の師弟譚

フィギュアスケート男子の鍵山優真(22=オリエンタルバイオ/中京大)が、オリンピック2大会連続の銀メダルを獲得しました。前回2022年の北京五輪に続き、団体と合わせて全て銀の通算4個目メダルは日本勢単独最多。男子の表彰台も日本勢5大会連続、同時獲得も3大会連続となりました。勝てた試合だっただけに悔しくも、父正和コーチ(54)との旅は、再びメダルに到達しました。

フィギュア

〈ミラノ・コルティナオリンピック(五輪):フィギュアスケート〉◇13日(日本時間14日)◇男子フリー◇ミラノ・アイススケートアリーナ

メダルを手に記念撮影する銀メダルの鍵山(左)と銅メダルの佐藤(右)。中央は金メダルはミハイル・シャイドロフ(撮影・パオロ ヌッチ)

メダルを手に記念撮影する銀メダルの鍵山(左)と銅メダルの佐藤(右)。中央は金メダルはミハイル・シャイドロフ(撮影・パオロ ヌッチ)

北京では泣かせた父を

勝てた。結果論が悔しさを募らせる。鍵山が「谷の方が多かった」と振り返る4年間を象徴した、苦悩の4分間。「雰囲気にのまれている」と父だけが表情で察した。

直前練習、止めさせて声をかける。しかし魔物は2度目に現れた。緊張すると上体が浮く癖が出て「世界一美しい」と称される、冒頭の4回転サルコーから乱れた。

正和氏の不安は、的中した。

「もう動きが縮こまっていた。フリップ…その前のサルコー、たぶん想定外だったと思う。サルコーがステップアウトして、フリップに入る前のスピードが全く落ちていたから。まずいな、と思ったんだけど」

言葉通り、切り札として投入した4回転フリップで転倒。6分間練習では美しかったが、本番は、まさに1本目の武器が崩れた影響を受けた。

それでも、優真は歯を食いしばる。

「普段の試合なら、一気にガクッて気持ちも下がっていたと思うけど、この五輪という舞台で挑戦することが、自分にとって大きな成果。絶対に最後まで諦めずに滑り切る、という強い意志だった」

諦めない。当地ミラノのスカラ座で初演から100周年を迎えたオペラ「トゥーランドット」を舞い切ってから、イナバウアーで沸かせてから「ごめん」と手を合わせた。

男子フリーで演技をする鍵山(撮影・パオロ ヌッチ)

男子フリーで演技をする鍵山(撮影・パオロ ヌッチ)

初出場18歳の北京は怖いもの知らずの銀で父を泣かせ、エースとなった22歳の2度目ミラノは、不完全燃焼の銀で笑顔にさせた。

優真が「挑戦できたことが良かった。(フリップも)4回転として形に残せたし、未練はない。父も『五輪だから全部こけてもいいよ。やり切ってくれれば十分だから』と言ってくれた」と目を細めれば、正和氏も「世界一の努力と言っても怒られない練習をしてきた。ただただ褒めたい。五輪だから、文句は言わず喜んであげるよ」と肩をさすった。

男子フリーの得点を確認し、顔を覆う鍵山優真。左は父の正和コーチ、右はカロリナ・コストナー・コーチ(共同)

男子フリーの得点を確認し、顔を覆う鍵山優真。左は父の正和コーチ、右はカロリナ・コストナー・コーチ(共同)

奇跡

父子そろって五輪2大会連続出場の偉業。長男は銀2個を2度、並べた。

振り返れば奇跡だった。18年6月23日、中学3年の時に父が脳出血で倒れた。

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スポーツ

木下淳Jun Kinoshita

Nagano

長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメリカンフットボールの甲子園ボウル出場。
2004年入社。文化社会部から東北総局へ赴任し、花巻東高の大谷翔平投手や甲子園3季連続準優勝の光星学院など取材。整理部をへて13年11月からスポーツ部。
サッカー班で仙台、鹿島、東京、浦和や16年リオデジャネイロ五輪、18年W杯ロシア大会の日本代表を担当。
20年1月から五輪班。夏は東京2020大会組織委員会とフェンシング、冬は羽生結弦選手ら北京五輪のフィギュアスケートを取材。
22年4月から悲願の柔道、アメフト担当も。