諸橋愛さんの訃報(ふほう)は輪界を大きな悲しみで包んだ。

競輪担当になってからは、まだ1年と少し。それでも、闘志あふれるガッツマーカーとしての走りは、少なからず見てきたつもりだ。

先日、競輪ファンの友人2人と話していて「諸橋愛のベストレースはどれか」という話題になった。答えは一致していた。昨年の岸和田G1高松宮記念杯の準決だ。

松井宏佑-郡司浩平-和田真久留の神奈川勢が人気の中心で、小林泰正-末木浩二-諸橋愛の上甲信越トリオはいわゆる“ヨーロッパ”と呼ばれる、競走得点で劣る4、6、8番車のライン。しかし、号砲が鳴るとそんな空気は一変した。

ライン3番手のはずの諸橋さんが、前受けの松井の外並走に出たのだ。誘導に差し込まないよう丁寧に。小林が赤板で押さえたところで定位置に戻ると、内にうまく神奈川勢を閉じ込めた。結果は、末木が早めに抜け出し1着。郡司の強襲に屈した諸橋さんは3着で決勝の切符は逃したが、ラインとしては大金星だった。

作戦について「普通に戦えば厳しいので。作戦会議で末木に『やれるか?』と聞いたら『すみません、僕にはできないです』って。だから自分がヒール役になった」と、後から教えてもらった。

支線だからといって簡単に切られ役にはならない。あくまでもルールの中で、アグレッシブに。初めて行ったG1の取材現場で、競輪の面白さを教えてくれた諸橋さんに、合掌。