12月11日、12日の2日間にわたり、石川・金沢プールで第4回となる飛び込みの「中田周三杯」が行われた。1911年に金沢市で生まれた中田周三氏は、選手として活躍したのち、指導者として7人のオリンピアンを育てた飛び込み界の第一人者だ。

中田氏が指導を始めた当時、女子スポーツが盛んではなかった時代であり、さらには、封建的な風習が残っていた金沢。しかしそんな時代をものともせず、女子高生である宮本(現姓 矢野)まさみ氏を1952年ヘルシンキオリンピック代表へと導いた。

時代の波に流されることのない強い情熱の持ち主だった中田氏は、指導者として93歳までプールサイドに立ち続けた。現在は、その教え子たちが全国へと広がり、今の飛び込み界を支えている。


飛び込み「中田周三杯」が金沢市で開催された
飛び込み「中田周三杯」が金沢市で開催された

今大会には、その功績や情熱を、若い世代へとつないでいきたいという熱い思いが込められているのだ。

日本では夏に試合が集中し、秋から春にかけてはオフシーズン。国内ではあまり試合が無いだけではなく、室内プールがある地域でも、冬場はプールがスケートリンクになってしまったり、専用使用でプールが使えなかったりと、練習環境を確保することですら困難な選手は少なくない。

しかし、そんな中でも2カ月後には、5月に福岡で開催される世界水泳の国内選考会が控えている。選考会に出場予定の選手たちは、この貴重な1試合を逃すまいと、冬場の厳しい練習環境の中、種目をそろえて出場した。

今大会には、東京オリンピックに出場した選手たちのほか、コロナで参加中止となった世界ジュニアの選抜メンバーが出場し、とても見応えのある大会となった。

やはり全種目において上位を占めたのは、東京オリンピック出場選手だった。女子板飛び込みでは、三上紗也可(日体大)が抜群の安定感と、期待通りの演技を披露し優勝。2位には、肩のケガから復帰し、今大会の高飛び込みでも優勝した金戸凜(Jrナショナル)が好調な成長ぶりを見せてくれた。そして、3mシンクロでは、この2人がペアを組んで出場し、個々のクオリティーを生かして優勝。まだペア歴は浅いものの、来年の世界選手権に向け、大きな1歩を踏み出した。


会場に置かれている中田周三氏の紹介
会場に置かれている中田周三氏の紹介

男子では、注目の玉井陸斗(JSS宝塚)が2種目を制した。板飛び込みでは難易度の高い技に挑戦し、順調な成長ぶりを見せたが、得意の高飛び込みではあまり調子が振るわず、ラスト1本まで西田玲雄(近大)との優勝争いとなった。しかし、最後の1本で本領を発揮。全体で最も高得点となる97.20点をたたき出し優勝し、強さを見せつけた。

今大会は、飛び込みを始めたばかりの選手が試合を体験できるよう、ノービス(飛び込みを始めて1年以内かつ公式試合に出場経験無し)という枠もある。初心者でありながら、オリンピック選手と同じ舞台に立てる機会があるというのはとてもいい経験だ。

ぜひ、これからも長期にわたり続いてほしい試合の1つである。

試合の感覚は試合でしか感じることができない。どれだけリアルにイメージを膨らませても限界がある。参加した選手たちは来季に向け、それぞれの目標や夢に向かって、また新たに歩き始めるいい機会となったに違いない。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)