4月4日から9日にかけて、東京アクアティクスセンターでは翼ジャパンカップ兼国際大会代表選手選考会が開催された。

飛び込みの翼ジャパンカップで審判を務めた中川真依氏
飛び込みの翼ジャパンカップで審判を務めた中川真依氏

今年7月に開催される世界選手権(福岡)は1回目のパリ五輪の選考会だ。

8日に行われた女子板飛び込み決勝では、三上紗也可(日体大)が自己ベストとなる364・45点で優勝を果たした。

三上は2022年の世界選手権(ブダペスト)で同種目において7位入賞。さらに、金戸凜(日大)とペアを組んだシンクロ板飛び込みでは銀メダルを獲得している。そのことから、日本水泳連盟による特例措置により、すでに世界水泳への出場は内定していた。だからこそ、今回は負けられない戦いだった。

この試合で、ちょうど審判をしていた私は、彼女の演技を間近で見ていた。

どの選手も今大会に向け、たくさん練習を積んできている。頑張っている選手たちに心の中でエールを送りながらジャッジをしていた。

そんな中、いつも安定感のある三上が、彼女らしくない消極的な演技が目立った。予選1本目。405B(後ろ踏み切り前宙返り2回半えび型)で板との距離が近くなり、足をぶつけてしまったことがキッカケだった。

心配になったが、足の指が少しぶつかったくらいでは、外傷的には大したことはない。しかし、心への影響は大きい。それが1本目となると、心の切り替えをうまくできなければ残り4本の演技にも影響が出てしまうのだ。

そして2本目。明らかに動きが硬い。その後も彼女らしいキレのある動きは見られず、ライバルである榎本遼香(栃木トヨタ)に続く2位での予選通過となった。

女子3メートル板飛び込み決勝での三上紗也可の演技(2023年4月8日撮影)
女子3メートル板飛び込み決勝での三上紗也可の演技(2023年4月8日撮影)

試合後、三上に心境を尋ねると、「予選は、最初の405Bで板に足が当たってしまったことで動揺してしまった。それが原因で、その他の演技に力が入りなかなかうまくいかなかった。上手くいかない自分が周りからどう見えているのか、失望させているかもとネガティブな思考に陥ってしまった。しかし、予選の後、選手やコーチ、トレーナーの方に励ましてもらいながら、自分はここまでたくさん練習してきたから絶対大丈夫だ!と思えるようになり自信を取り戻した」と話してくれた。

その言葉通り、決勝では、世界でも数人しか飛ぶことのできない大技「5154B(前宙返り2回半2回ひねりえび型)」で自身初の80点台(81・60点)をマーク。予選の合計得点より100点近く上回る素晴らしい演技を披露し、表彰台の1番上へと上った。

女子3メートル板飛び込みで優勝しメダルを手に笑顔を見せる三上紗也可(2023年4月8日撮影)
女子3メートル板飛び込みで優勝しメダルを手に笑顔を見せる三上紗也可(2023年4月8日撮影)

24年のパリ五輪への出場権を獲得するには、世界選手権(福岡)で決勝12位以内に入ることが絶対条件だ。国内では「女王」としてのイメージが定着し、挑戦者だったころとは違うプレッシャーや緊張が自分自身を苦しめる。しかしそこに打ち勝ち、1歩1歩パリへと進んで行く姿が、とてもたくましく思えた。

今大会では、2023ユニバーシティーゲームス(中国成都)そして、アジア競技大会(中国杭州)の代表選手も選考された。

それぞれの大会に選ばれた選手たちは、自分の目標に向かってしっかりと練習を積み、自信を持って試合に臨んでほしい。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)