5月14日にフジテレビで放送された「オールスター合唱バトル」。

日曜日のゴールデンタイムでもあったため、視聴された方も多いのではないだろうか。

なんと、私もこの合唱バトルに参加させていただいたのだ。

私が一員となったのは、吉田沙保里さん率いる「アスリートチーム」。その他には、村重杏奈さん率いる「Z世代チーム」、狩野英孝さん率いる「歌ウマ芸人チーム」、浅香唯さん率いる「80年代チーム」、そして、さくらまやさん率いる「演歌歌手チーム」の5つのチームが参加した。会場には総勢100人もの豪華芸能人が集まった。

吉田沙保里さん(前列中央)率いる「アスリートチーム」。筆者は前列右から2人目。
吉田沙保里さん(前列中央)率いる「アスリートチーム」。筆者は前列右から2人目。

私たちが歌ったのは「紅蓮華」と「栄光の架け橋」の2曲。皆さんもご存知のとおり「栄光の架け橋」は2004年アテネオリンピックの公式テーマソングである。これはアスリートにとって特別な1曲。そのため何とかイメージはできた。しかし問題は「紅蓮華」。先生たちからは、全曲の中で最も難しい曲だと紹介された。その言葉通り、初めて完成形の「紅蓮華」の合唱を聴いた時は、あまりの難しさに笑ってしまった。思わず「こんな歌、私たちにできるんですか?!」と同じチームのメンバーと顔を見合わせた。

多くのアスリートは試合前や試合中など、気持ちを整えるために音楽を聞いている。私もその1人だった。しかし、歌うとなると話は別。カラオケでしか歌ったことがない、ど素人の私が公共の電波を使って歌っていいものなのかと何度もおじけづいた。

練習でも、初めは先生が言っている意味が分からなかった。出したい音(声)が出ないし、隣のパートにつられて合唱にならない。わずか1カ月の練習期間でテレビに出られる程のクオリティーになるのかと不安しかなかった。

みんなで集まれる回数は限られている。そのため、個々の練習に期待するしかなかった。私も何とか完成できるようにと、寝ても覚めても自分のパートを口ずさんでいた。

もちろんプレッシャーはあった。しかし、1つの目標に向かって進む日々は何とも言えない充実感だった。しかも、今回は1人じゃない。19人の偉大なアスリートたちと一緒だ。飛び込み競技は個人競技。常に孤独の戦いだった。「団体競技をしているアスリートはこんな気持ちなのかな」と想像を膨らませながら練習に励んだ。

5月14日にフジテレビで放送された「オールスター合唱バトル」の出演者たち
5月14日にフジテレビで放送された「オールスター合唱バトル」の出演者たち

私が担当したのはアルト。少しクセのあるパートだ。外出時はイヤホンを付け、家でも毎日練習。すると、いつの間にか娘までもが口ずさみ始め、思わず笑顔に。家族を巻き込んでの挑戦だったが、歌のある日々が楽しくて仕方がなかった。

本番当日は、緊張とワクワクした気持ちが入り混じっていた。現役時代にはない「ワクワク」があったのは、みんながいてくれたから。同じ目標に向かって努力してきた仲間がいるというだけで、とても心強かった。やるからには優勝を目指すのがアスリート。気合は十分。みんな幾度となくピンチを乗り越え、世界で戦ってきたのだから大丈夫だと互いに励ましあった。

しかし、本番が近づくにつれ、大きなプレッシャーがのしかかってきた。舞台に上る直前まで歌詞や音程の確認をし、心を落ち着かせた。

とにかく今ある力を全て出し切るだけ。私たちの思いをそのまま歌に込めた。

会場中に響き渡る大きな拍手。涙を浮かべながらこちらを見つめるまなざし。私たちの思いが皆さんの心に届いたのだと、大きな感動と達成感に包まれた。

アスリートチームのほとんどが中学生以来だった合唱。基礎から教わり、たった1カ月で作り上げた歌が、これほど素晴らしいものになるとは想像もつかなかった。これも、諦めずに根気よく教えてくださった木島タロー先生率いる「Dreamers Union Choir(DUC、ドリーマーズ・ユニオン・クワイアー)」の方々のおかげだ。感謝しかない。5チームの中では最も歌うことから縁遠い私たち。きっと先生たちにとっても未知なる挑戦だったに違いない。

合唱の練習中も和気あいあい
合唱の練習中も和気あいあい

全チームが2曲ずつ歌い終え、アスリートチームの結果は3位。当たり前だが、プロの歌唱力や表現力は圧巻だった。最後には順位なんてどうでもよくなっていた。あれだけ多くの有名な方々を目の前にし、素晴らしい歌声を聞けるなんて、この上ないぜいたくだ。出来るならもう1度あの日に戻りたい。そう思わせるほどの感動をくれた夢のような1日だった。

各チーム、それぞれの輝きを持った合唱により、会場にいた全ての人が1つになったように感じた。

みんなと過ごした時間の中でも、最も印象深かったのは本番前の控室。誰か1人が歌い出すと、それに合わせて次々と各パートが加わり、自然と合唱になった。歌う事がこれほど楽しいと思ったのは初めてだった。

左から筆者、アルペンスキーの清澤恵美子さん、元バドミントン選手の潮田玲子さん、合唱の指導でお世話になった「ななこ先生」
左から筆者、アルペンスキーの清澤恵美子さん、元バドミントン選手の潮田玲子さん、合唱の指導でお世話になった「ななこ先生」

そして何より最高のメンバーと出会えたことは一生の宝物。今回感じたのは、アスリートはやはり本番に強いということ。そして審査員のソプラノ歌手、岡本知高さんがおっしゃった「クオリティーを超える感動」を与えられたのは、私たちだったからだと思う。たくさんのアスリートがいる中で集まったわずか20人。その中の1人として歌えたことが本当に幸せだった。

またいつか、みんなで歌える日がくることを願っている。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)