初の海外試合でメジャー優勝に王手をかけた渋野日向子(20=RSK山陽放送)が、運命の最終日をスタートさせた。

前日の第3ラウンド(R)は2位から出て7バーディー、2ボギーの67で回り通算14アンダーの単独首位に浮上。黄金世代の20歳は2位に2打差をつけ、この日を迎えた。勝てば日本勢では男女を通じ、77年全米女子プロの樋口久子(現LPGA顧問)以来42年ぶり2人目のメジャー制覇となる。米国女子ゴルフ協会が「笑顔のシンデレラ」と名付けた無名の新星は実は泣き虫。その素顔を紹介する。

   ◇   ◇   ◇

クラブハウスの片隅で、彼女はしくしく泣いていた。6月中旬、ツアー会場でのことだった。

国内でも無名の存在ながら、5月のワールド・サロンパス杯で初優勝。常に笑顔を絶やさない姿が一躍、注目された。だがプロ初勝利を飾ってからも、満足なプレーができなければ隠れて泣いた。今大会の快進撃で「笑顔のシンデレラ」と呼ばれるまでになったが、流した涙は数え切れない。苦労を重ね、努力ではい上がってきた。

「うまくいかなくて、悔しくて…。みんなに置いて行かれてしまう気がするんです。でもどんなにうまくいかなくても、笑っていないといけないと思う。なかなか難しいですけどね」

最も遅れてきた黄金世代の選手だった。同じ98年度生まれは、アマチュア時代の15歳でツアー優勝した勝みなみを筆頭に畑岡奈紗、新垣比菜、大里桃子が昨年までにレギュラーツアーで優勝。渋野と同じ下部ツアーが主戦場だった河本結は、4勝を挙げて力を付けた。どんどん成長する同世代に必死に付いて行こうとしたが、昨年9月以降は下部ツアーでさえ全5試合で1桁順位が1度もなかった。

特に2年前の夏は、どん底にいた。初挑戦のプロテストは、第3ラウンドまで通算14オーバーの97位。最終日に進むことすら許されず、振り返れば最下位はすぐそこにあった。プロになる夢を、諦めようとした。悩んでいた時、1人のプロが目に入った。

「先輩の大出瑞月さんがずっと、パットの練習をしていた。それくらいやらないと、うまくはならないんだと、気づかされました。うまくなりたかった」

1年後のプロテストに合格。2年が過ぎた今、初の海外試合として挑んだ舞台が今回のメジャーだった。第3ラウンドは一時、首位に6打差をつけられながら、単独首位で最終日を迎える。悔し涙が、うれし涙に変わる瞬間が来るかもしれない。【益子浩一】

◆VTR 4日の最終日は曇り空の下、首位渋野と2打差2位ブハイの2人が最終組でスタート。渋野は2連続パーとした後の3番パー4で、2オンしながら痛恨4パットでダブルボギー。2位に後退したが、5番で約6メートルのバーディーパットを沈め再び単独首位に立った。

前日3日の第3Rは一時、首位ブハイに6打差まで離された。5、9番で短いパーパットを外すと、笑顔を失いハーフターンの際にトイレに駆け込んだ。10番パー4で3メートルを沈めると、14番パー3では5メートルのバーディーパットを沈めて食らいついた。後半だけで6バーディーを奪い、失速したブハイを逆転し2打差をつけた。渋野は「前半50点、後半は120点」。優勝に王手をかけ「この位置だと、やっぱり狙わないといけない」と初Vを意識した。

<渋野日向子(しぶの・ひなこ)>

◆生まれ 1998年(平10)11月15日、岡山市。

◆競技歴 岡山・平島小時代、ソフトボールをしながら8歳でゴルフを始める。上道中1年から岡山県ジュニア3連覇。昨夏にプロテスト合格。

◆獲得賞金 昨年はレギュラーツアーに1試合しか出場できず0円。QT40位の資格で出場する今季は国内2勝を挙げ、申ジエに次ぐ賞金ランク2位の約7820万円を獲得。

◆子どもの頃の夢 幼稚園時の夢は仮面ライダーとディズニーのアリエルになること。

◆家族 両親とも筑波大出身。父悟さんは砲丸投げ、円盤投げ国体2位。母伸子さんはやり投げで高校総体出場。3姉妹の2番目。

◆サイズ 165センチ、62キロ