布巻峻介
布巻峻介

知ればラグビー通へと1歩前進するワードを解説するシリーズ第2回は「ジャッカル」。第1回で紹介した、ブレークダウンの中でひときわ大事なプレーで、味方の窮地を救うと同時に最大の攻撃チャンスを生み出す。日本代表候補の選手らが「ジャッカルの名手」と口をそろえる、フランカーの布巻峻介(26=パナソニック)にジャッカルの極意を聞いた。

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大柄な男たちが密集の中でボールを奪い合う肉弾戦こそ、ラグビーの醍醐味(だいごみ)。中でも称賛されるプレーが「ジャッカル」だ。タックルを受けて倒れた選手からボールを奪い取るプレー。チームをピンチから救うだけでなく、ディフェンスが整っていない相手を一気に攻め立てるチャンスも生まれる。

ジャッカルの名手が日本にいる。日本代表候補のフランカー布巻だ。178センチ、96キロと世界的には小柄だが、工夫を凝らしてジャッカルの名手になった。

ポイントは2つある。1つ目はスピード。

布巻 いかに相手のサポートより先に密集にたどり着けるか。ボールを持った相手の動きや、味方のタックルの動きや方向で、相手がどのような姿勢でどこに倒れるかを予測します。単純に足が速ければいい、という問題ではありません。

2つ目は姿勢。

布巻 強い姿勢は人それぞれ。自分の場合は両足と胸がボールに近いこと。そうすると両腕をしっかり曲げてボールに絡むことができます。体重移動も大事で前後に半分ずつのイメージ。前にかけすぎれば自分が倒れ込みの反則をもらいやすく、腰が引いて両手が伸びきると力が入りません。

ジャッカル
ジャッカル

1試合で200回以上あるブレークダウンの中で、ジャッカルが成功する確率は「2、3回できれば上出来」。攻撃側はボールを保持しようとし、防御側は受動的になるため簡単にボールを奪えない。だからこそ、ジャッカルには価値があり、成功するとチームの士気も一段と上がる。仮に奪えなくても、ボールに絡みつくことができていれば、倒れたらボールを離さないといけない相手から「ノットリリースザボール」の反則を誘発できることもある。

00年に代表初キャップを獲得した元オーストラリア代表のジョージ・スミスが、「ジャッカル」を世界に広めた。密集で的確に、かつ激しくボールに絡みつくプレースタイルから、どう猛な動物にちなんで「ジャッカル」という愛称で呼ばれるのと同時に、スミスの代名詞的プレーとなった。現同代表フランカーのデビッド・ポーコックも名手の1人。スミスは11~14年と16~18年にサントリーでプレー。ポーコックは16年からパナソニックで2年間プレーし、2人の活躍によりジャッカルの重要性が日本にも広まった。荒々しさの中にも、繊細さや高いスキルが求められるジャッカル。ボール争奪戦の極みがここにある。【佐々木隆史】