知ればラグビー通へと1歩前進するワードを解説するシリーズ最終回は「TMO」。「テレビジョン・マッチ・オフィシャル」の略で、いわゆるビデオ判定のことを指す。危険なプレーを判別し、誤審を防ぐなどのメリットがある一方で、試合の流れが止まるデメリットもある。選手やレフェリーもTMOについて、さまざまな考えを持っている。

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試合中にレフェリーが、両手で大きく四角を描くジェスチャーをする。プレーは一時中断し、会場のモニターに直前のプレー映像が流れ、ファンが一喜一憂する。危険なプレー、またはトライの判定が微妙な時に利用され、より正確で公平な判定をするために世界的に導入された制度が「TMO」だ。

ワールドカップ(W杯)では03年大会から、トップリーグ(TL)では14年シーズンから実施されている。4、5台のカメラを設置し、さまざまな角度から確認してレフェリーをサポート。回数制限はなく、主審が求めればいつでも実施できる。誤審は減り、判定が正確になった。

競技の特性上、密集場面が多く、特にトライライン付近での攻防は屈強な男たちがもみくちゃになる。その中でトライの判定や反則の有無が分かりやすくなった一方、試合の流れに影響を及ぼす場合もある。

TMO判定までの流れ
TMO判定までの流れ

例えば、体が小さいチームは、ボールをつないで走り勝とうとする戦術を用いるケースが多い。ボールを左右に振り、グラウンド全体を使いながら攻撃を何度も重ねる。少しずつ、少しずつ前進し、疲れた相手の隙を突いてようやくトライ。もし、その時にTMOが使われればどうなるか。確認のために4、5分中断すると、疲れている相手は回復。対策も練られる。日本代表のSH田中史朗は「自分たちの流れは止まるし、相手も態勢を立て直せる。TMOの結果で一喜一憂せず、いかに次のプレーを考えられるかが重要」と話す。

レフェリーも、使用の際には細心の注意を払う。久保修平レフェリーは「実はあまり使いたくはない」と明かす。80分間の試合が長引くことと、両チームの流れにストップがかかることを恐れている。「使えばその都度、ゲームが止まる。レフェリーの役目はゲームを安全かつスムーズに進行すること。主人公ではないし、自分のレフェリングにも自信を持ちたい」と毅然(きぜん)とした態度だ。

昨シーズンのTLでは、計124試合で211回、17年シーズンは計120試合で190回実施された。1試合平均はそれぞれ1・7、1・5回で、W杯でもほぼ必ずTMOの場面は起こり得る。その時の状況や、TMOの映像に一喜一憂するのもいいが、選手やレフェリーの心境を読むのも観戦の1つの楽しみになるかもしれない。【佐々木隆史】