人間同士の激しいぶつかり合い、華麗なスキル、ノーサイド精神…。さまざまな魅力が詰まったラグビーにも、他のスポーツ同様に「道具を大切にする」という文化が根付いている。今週は脇役になりがちな「用具」の数々を、トリビアを織り交ぜながら特集。第1回は代表での国際試合出場数が示される「キャップ」のしきたりに迫る。

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ラグビー中継や新聞紙上で必ず耳にする「キャップ」というワード。ラグビー日本代表における「1キャップ」の表記は、テストマッチや日本協会が認定した国際試合に、1試合出場したことを意味する。15年ワールドカップ(W杯)日本代表のプロップ山下裕史(33=神戸製鋼)は昨秋、3年ぶりに代表復帰。11月のニュージーランド戦で50キャップの大台へ乗せ「『50キャップ』という響きが格好いいでしょう。キャップは目標になる」と半年前の喜びを思い返した。

ラガーマンの憧れや誇りである「キャップ」は1983年(昭58)1月16日、勲章を証す品として選手に初めて贈呈された。日本協会は82年12月にキャップ制度を新設。第1回の対象者254人を発表し、以降はテストマッチ後の授与式などで初キャップ獲得選手に贈っている。同協会が定めた最初の対象試合は1930年(昭5)のブリティッシュ・コロンビア戦(カナダ)。直近のテストマッチである2018年(平30)11月のロシア戦まで348試合を数え、660人がキャップ保持者となった。

現在のキャップ製作を担当するのは1879年(明12)、東京の銀座に創業した株式会社天賞堂。10年ほど前に日本協会から打診があり、担当の山田高久さん(54)は「『ぜひ、やらせてください』と言いました。選手はこれを目標にしている。喜びを形にする仕事をしている身として、気合が入った」と請け負った。同社は06、09年とワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2連覇を果たした野球日本代表の優勝記念チャンピオンリングを担当し、13年には長嶋茂雄氏と松井秀喜氏の国民栄誉賞記念品として「金のバット」を作った実績があった。

日本代表キャップの重要な部分は、帽子の前面とつばに施す金色の刺しゅうという。山田さんは「日本でできる職人さんが見つからず、この部分だけをパキスタンで作っている」と明かす。それぞれに依頼したパーツをまとめる手間があり、完成までは受注後4~5カ月を要する。出来上がった作品には後ろに通し番号が刻まれ、授与後は5キャップごとに選手へ星のワッペンが贈られる仕組みだ。

「キャップ」はサッカーなど英国発祥の競技で用いられ、その文化は日本でも重んじられている。昨秋には日本協会理事会で男女7人制、女子15人制代表へのキャップ授与が発表された。同協会は「特に女子15人制は日本協会に属さない時から、自費で(国際統括団体公認ではない)W杯に出場していた。その名誉をたたえるべきという声があった」。W杯日本大会を戦う選手が必ず持つ「キャップ」には、自らの歩み、国の誇り、支える人々の思いが詰まっている。【松本航】

日本代表キャップ数歴代5傑
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