選手も観客も、相手を敬い、たたえ合うのがラグビーの1つの特徴。試合中や、試合後に相手をたたえる文化があり、国際統括団体ワールドラグビーが公式に定める「ラグビー憲章」には「尊重(RESPECT)」という項目が設けられている。

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試合が終わると、互いに死力を尽くしていた男たちが、グラウンド上で1列に並んで向かい合う。ゲーム主将が「スリー・チアーズ・フォー」と言い、対戦相手のチーム名を言った後に、他のメンバーが「ヒッ、ヒッ、フレー」と親指を3回立てながら唱える。大学ラグビーなどでよく目にするこの光景は、ラグビー発祥の地とされる英国式の万歳三唱が由来。「スリー・チアーズ・フォー○○○」は「○○○を万歳三唱しよう」という意味で、「ヒッ、ヒッ、フレー」の本来の発音は「ヒップ、ヒップ、フーレイ」。「万歳」の意味だ。

7月27日、試合後フィジー選手と抱き合うリーチ
7月27日、試合後フィジー選手と抱き合うリーチ

グラウンド上でたたえ合った後は、スーツに着替えて会場内外で「アフターマッチファンクション」を行う。全員でビールを飲む。飲食は軽め、コミュニケーションが主体で、部歌を歌ったり、ペナントを交代したりするなどして交流を深める。国代表のテストマッチでも行われ、ラグビー界特有の交流文化だ。

選手だけではなく観客も、試合中は敬意を持ち合わせる。トライ後のゴールキック。観客は一斉に静まり、ブーイングは行わずにキッカーがボールを蹴るまで見届ける。18年11月にイングランドのトゥイッケナム競技場で行われた日本-イングランド戦では、ゴールキックの場面になると会場中の電光掲示板に「RESPECT THE KICKER」と表示。約8万人のファンがゴールキックのたびに静かに見守った。キックモーションに入ると相手選手はインゴールから走ってプレッシャーをかけることができるが、大声を出すのはタブー。会場中がキッカーを尊重する瞬間だ。

ワールドラグビーが公式に定める「ラグビー憲章」では、5つの言葉で競技の特徴を伝えている。その中に「尊重」の項目があり「プレーヤーには競技規則を順守し、フェアプレーの原則を尊重するという最優先の責務がある。チームメート、相手、マッチオフィシャル、そして、ゲームに参加する人を尊重することは、最も重要である」(一部抜粋)と記されている。選手はレフェリーに判定の不平を訴えない。ゆえにラグビーは「紳士のスポーツ」と言われる。グラウンド上での激しい戦いの中にある、相手をリスペクトする精神がラグビーの価値を高めている。【佐々木隆史】