いよいよ迫ってきたキックオフ。日本は目標の1次リーグ突破に向けて、4試合を通したマネジメントをどうするのか。前回大会を日本代表コーチとして経験した沢木敬介氏(44)は一般にはあまり知られない「レフェリー対策」にも言及した。レフェリーを味方につけながら、ホームの利を生かす。日本ラグビー界きっての「知将」が大会の裏側を切った。【取材・構成=荻島弘一】
-開幕間近。最後の実戦となった南ア戦後、リーチ主将はレフェリーのジャッジに疑問を呈し、試合中のコミュニケーションの重要性を語りました。本大会ではレフェリーとの関係も、勝負の鍵となりそうです
沢木 レフェリーの傾向はすごく大切です。だからこそ、徹底して分析します。好きなプレーや嫌いなプレー、時間帯やエリアによる笛の傾向も調べます。開幕のロシア戦はオーウェンズ氏(ウェールズ)。前回大会決勝も吹いた世界で最も評価の高いレフェリーです。経験もあるし、マネジメントもうまい。
-特徴があるのですか
沢木 あまり笛が多いタイプではないですね。ペナルティーをさせないようにスムーズに試合を回す。コミュニケーションが大事。よい印象を与えることで、有利に試合が運べる。
-具体的には、どんなコミュニケーションを
沢木 リーチ(キャプテン)を中心に、早い段階でいいメッセージを送る。笛の後で「どう見えているのか」とか。「今のプレーはグレーに見える」と言われたら、チームの中で共有して繰り返さないように。ラインオフサイドが続けば、大げさに下がってみせるとか。そういうコミュニケーションで笛の吹かれ方をコントロールできる。
-他の日本戦担当レフェリーの特徴は
沢木 アイルランド戦のガードナー氏(オーストラリア)は、どちらかと言えば笛が早い。サモア戦のペイパー氏(南アフリカ)はインプレー(実際に試合をしている時間)が短かったけれど、最近は長くなってきた。いずれも、偏りがあるタイプではない。日本にとっては悪くないです。
-試合前にはレフェリーミーティングもあります
沢木 すごく重要で、両チーム別々にやる。相手のスクラム映像を見せながら「これ、ペナルティーですよね」とか、モールディフェンスの映像で「オフサイドですよね」とか。また「自分たちはこういうプレーをする」という情報を伝えたりする。駆け引きの部分もあるし、戦術などをクリアにすることにもつながります。
-今回は前回と違ってホームの利もあります
沢木 ケガ人などの対応は海外と全然違う。海外の大会で、移動に十何時間もかけて合流しても、コンディションは絶対によくない。ホームだとケガをしても入れ替えを含めた対応がスムーズ。治療もすぐに受けられるし、リカバリーの部分でもプラス。施設面もいいですから。それだけでも、圧倒的に有利です。
-海外だと言葉などの問題もありますね
沢木 15年の時はリエゾン(通訳兼世話係)といいコミュニケーションがとれた。リエゾンはすごく大事ですね。パイプがあって、動けるか。それがホームだと自由にできる。食のストレスもなく、移動も楽。それを生かしたいですね。
-前回大会は移動も大変でしたか
沢木 全部バス。選手はきつかったでしょうね。警察のエスコートがついたけれど、日本はつかない。日本は渋滞があって、新宿から府中まで15分が、混むと1時間かかる。慣れない外国チームは大変ですね。
-日程的にも、前回は中3日の試合での回復に苦しみましたが、今回は最短でも中6日です
沢木 その試合に集中した、より戦術的なメンバーの組み合わせができます。中3日だと体力的にもきついし、ここで無理をしたら、次出られないとかを考える必要もある。間が短いと、けがの回復が不透明な選手は次の試合のメンバーに入れにくいが、中6日だとメンバー登録まで日があるので、ぎりぎりまで粘れる。そこは全然違うと思います。
-15年大会では、出場機会のなかったベテラン広瀬がチームをまとめました
沢木 悔しさの中で自分の役割をまっとうした。彼には相手の分析をしてもらっていたし、試合に出られない若手の精神的なサポートもしていた。W杯は特別な大会です。今回も、経験あるベテランの存在はポイントになると思います。