<高校野球広島大会:新庄5-4崇徳>◇26日◇準決勝

 前代未聞の珍事が起こった。延長10回表。崇徳先発阪垣拓哉投手(3年)が、投手→左翼手→投手、さらに左翼手へと交代しようとしたがこれが野球規則に違反するとの相手側の指摘などで中断。79分にも及ぶ協議の結果、審判がミスを認め「教育的配慮」として交代不履行で試合が続行。再開直後に決勝打を放った新庄が決勝に進出した。

 熱戦に水を差す79分間だった。延長10回表、新庄の攻撃。マウンドには崇徳の先発阪垣がいた。先頭打者に内野安打を許した後に左翼守備へ、マウンドには松尾達宜投手(2年)が登った。松尾が犠打を処理すると、再び左翼の阪垣と入れ替わった。

 ここまでは問題なかったが、阪垣が次打者を打ち取り、2死三塁となったところで、崇徳の藤本誠監督(31)が「投手松尾、左翼に阪垣」を告げた。南場球審が受理し、大会本部に交代を報告。左翼からマウンドに戻った松尾が投球練習している時に「問題」が発覚した。

 大会委員長で広島県高野連・阿蘇品理事長ら大会本部と、新庄・迫田守昭監督(65)がほぼ同時に、同一イニングで投手が守備に回り再び投手となった後は、投手以外の守備にはつけないという野球規則3・03に抵触することを指摘した。崇徳側は「春も試しているし、その時は問題にならなかった」と主張し、長い中断に突入。バックネット裏からは「審判もしっかり勉強せい!」など激しいヤジが乱れ飛ぶ。選手は給水に戻り、再び守備に就き、時間を過ごすなど困惑しきりだった。

 結局、「審判部としては不手際があったことをおわびします」とアナウンスされ、投手交代不履行として試合再開となった。すでにベンチ入り20人全員を使い切っていた崇徳にほかに選択肢もなかった。崇徳の規則違反として没収試合、新庄の勝ちとなる可能性もあったが、阿蘇品理事長は「日本高野連審判部とも相談しました。教育的な意味合いもあり、そのまま再開した」と説明した。

 試合は、「続投」となった阪垣が初球を中前にはじき返され、勝ち越された。新庄は初の決勝進出。試合後は両チーム監督が握手を交わしたが、後味の悪さは否めない。迫田監督は、バッグから2冊の野球規則を取り出し「ルールを含めて試合ですから」と穏やかに振り返った。【佐藤貴洋】